ポジティブになれるような感情を受け取って欲しい
―現在の活動内容について教えてください。
コウジマクルミ:基本は福岡を拠点に、『ハイパーレトロポップイラストレーター』という肩書きで活動させてもらっています。
主にミュージックビデオやジャケットデザインの担当、装画といったご依頼をお受けしていて。
あとは、全国各地で個展の開催や、グループ展、イベントにも積極的に参加しています。
―イラストレーターとしてお仕事をしようと決心したきっかけを教えてください。
コウジマクルミ:イラストレーターになる前は、会社員で営業の仕事をしていて…
コロナ禍の時、周りの環境も少し変わって、「生きている間に私もやりたいことをやりたいな」と思ったのがきっかけでした。
そこから『やりたいこと』を見つめ直してみると、昔から友達に学校でイラストをプレゼントしたりしていて、喜んでもらった経験があったんです。それが嬉しかったな、という記憶もありまして…そこから、絵を描くことが私のやりたいことなのかな、と。
やりがいのある仕事かもしれないと思って、イラストレーターになりました。
―それまで、絵の勉強などはしておられたのでしょうか?
コウジマクルミ:美術系の学校には行っていないんです。
何なら、高校受験の時に一応『芸術科』というのを受けたんですけど。そこで落ちたというか、学校は受かったんですけど、普通科として合格してしまって。
そこで絵は一度諦めて、ちょっと一旦「違うことやるか」と思ったので、そこから大学までずっと、音楽を…どちらかというと楽器演奏をやっていました。
なので学校とかもそうですし、仕事も含めて絵は趣味程度で描いていました。
―その流れで今に至っておられるのは、すごいですね。では、ご自身の作品の方向性は、どのように決められましたか?
コウジマクルミ:そうですね…
最初は、仕事辞めようかな…ぐらいの時から、ちょっと絵を描いていたんですけど。
今も好きなのですが、当時から映画を観るのが好きだったので、その時は映画のレビューをイラストで描くことから始めて。
Instagramに、観た映画のあらすじや感想をイラスト付きで上げていったんです。
なので最初は、本当に好きなものを描く、という感じでした。好きな俳優さんとか。
今とは全然違う絵のタッチで、どちらかというと、デフォルメされた人間の絵でしたね。色はもう、今と結構近かったんですが、当時はモノクロも描いていて、最初はそういう『好きなものを描く』というところから始めていきました。
本当にここ数年…2年ぐらいでやっと、明確に自分でテーマを作って描くようになりましたね。
やっぱり映画や音楽が好きだったので、そこから得た感想というか…「こういう映画を観て、こう思った」みたいな感情的な部分を自分でテーマにして、それをオリジナルで描く、というスタイルができるようになってきました。
そこから好きな色を通して、カラフルでポップな、今のスタイルに変わっていった感じです。
―すごく面白いですね。今の色使いなども、何かきっかけがあってお好きになったのでしょうか?
コウジマクルミ:そうですね。大学生の頃ぐらいに、映画にハマったんですけど。
ウェス・アンダーソンという監督がいらっしゃって、その方の作品が結構パステルというか、すごく可愛い色使いをしていらっしゃるんですね。
その映画を見た時に、勿論作品自体も面白かったのですが、色使いが何かもう直感で「可愛い!」と思っちゃって。
そこから、ウェス・アンダーソン監督の作品に使われていたような色や組み合わせとかを見るだけで「可愛い」って思うようになっちゃったので、恐らく自然と自分の絵にも使っているんじゃないかな、と思うところはあります。
―なるほど。では作品を描くにあたって大切にしていること、意識していることがあれば教えてください。
コウジマクルミ:何か元気になったり、自分に自信を持ったり…あとは、美しいものに着目できるようになるきっかけ、というのを、私の絵を見て得てもらえたら嬉しいなと、ずっと思っています。
私が結構、根がポジティブなので、楽しいことはもちろん、何かつらいことがあったとしても、そういう感情も全部愛おしいと考えているんですよ。
イラストで言うと、私の場合、笑顔の描写は少ないんですが、だからといって「悲しい絵」ではなくて。
色使いや表情から、何かちょっとポジティブになれるような、そういう一面や感情を受け取って欲しいなと思って描いています。
個人で描くイラストは、気分で色を選んで、描き始めることが多い
―先ほどウェス・アンダーソン監督のお話を伺いましたが、他にも影響を受けたクリエイターさんや、参考にされている部分があれば、教えてください。
コウジマクルミ:そうですね。色の部分だと、先ほどお話ししたウェス・アンダーソン監督なんですけど。
人の描き方や線の描き方で言うと、江口寿史さんとか、あとはNAKAKI PANTZさんは、活動を始めた当初、線画の描き方などを参考にさせていただきました。
もっと前にさかのぼると、子供の頃には、漫画家にもなりたいな、と思っていたので。
『となりの怪物くん』という漫画を描かれた、ろびこ先生のイラストなどは、子供の頃から模写していましたね。
なので、そういうところが結構、基盤になっているかなと思います。
―お話を聞いていて、作品全面にご自身の好きなものが詰め込まれているのがすごく伝わるのですが、1枚1枚描く度に「詰め込むぞ」みたいな意識をされているのでしょうか。
コウジマクルミ:何かもう、自然と詰め込まれてしまっている感じですね。
最初は「この色を使いたいな」などから入ることが多いので、そうしたら、あとはもう好きなものを入れ込む、という感じです。
ご依頼のイラストだと、また別になってくるんですけど…個人で描くイラストは、気分とかで色を選ぶことが多いんですよ。
「そろそろ青使いたいな」とか、そういう感じで描き始めることが多くて。
私にとっては、色の存在が結構大きいかもしれないです。
やっぱり、色があるほうが気分も上がるので。
―では、作品のクオリティを上げるために意識していること、おすすめの方法などはありますか?
コウジマクルミ:最初に描き始めた頃は、映画のレビューをイラストにしていたので、映画を一時停止して、名シーンを絵で描いていたので…ひたすら模写していました。
その中で、人間の体の作り方とかを、無意識に練習できていたのかなと思います。
あとはもう単純に、イラストレーターになってお仕事をいただいてからは、描く枚数も増えたので。
ひたすら描いていた時期が、今思えば一番画力が上がっていたように思うので、『ひたすら描く』というのがポイントなのかなと思いました。
リスペクトしている様々なカルチャーの人たちと、一緒に仕事がしたい
―現在は、どのようにお仕事を取っているのでしょうか。また、お仕事を受ける際の優先順位などもあれば、教えてください。
コウジマクルミ:最初のほうは自分から営業するというよりも、ひたすらInstagramとX(旧Twitter)にイラストを上げていました。
そこからリツイートなどの機能のお陰でたくさんの人に見てもらえて、主にDMや、掲載してるメールアドレスから依頼が来ていましたね。
優先順位に関しては…
納期があまりにも厳しくない限りは、基本的にどのお仕事もチャレンジしたいなと思っています。
―クリエイターとして活動する上で、不安などはありましたか。また、その不安とはどう向き合ってこられたのでしょうか。
コウジマクルミ:仕事を辞めてからイラストレーターになったので、やっぱり金銭面ではかなり不安がありましたね。
ただ、前の営業の仕事が忙しすぎて、あまり休みがなく…もう、イラストを描くことも、映画を観ることもちょっとできない状況だったんです。
とりあえずそこから離脱しようと思って、飛び出した感じでした。
なので、しばらくはもう、貯金を切り崩しながら…1年ぐらいは本当に特にご依頼もなく、ひたすら絵を描いていた時期には、お金に関しては心配がありましたね。
でも、今はどちらかというと、結構クリエイターあるあるというか…
色んなイラストや作品が、もう世にいっぱい出ている時代なので、「誰々のパクリじゃないか」とか、そういうのがイラストレーターにはつきものというか、不安な要素でもあると思うんです。
私も1回、インスタのコメント欄で「ちょっと誰々の絵柄に似てませんか」っていうふうに指摘を受けて。
いざそういうコメントが来ると、自分でもちょっとドキッとしてしまって…そういうつもりじゃなくても、やっぱり影響を受けているものがいっぱいあるので。
改めて、影響を受けているものに対してのリスペクトを感じられるイラストが描けているのか?自分のオリジナリティがきちんと出せているのか?とか、そういう点は、作品を出す前になるべく客観的に見れるように意識していますけど、それでも、これからもずっと向き合わなければいけない要素かなとは思います。
―では、絵をお仕事にしていて良かったと思うことを教えてください。
コウジマクルミ:常に新しいことにチャレンジできる仕事、というところですね。
私はちょっと飽きっぽい性格なんですけど、イラストレーターは、ご依頼の絵も含めて、全部1から新しいものを描くことになりますので、本当に常に刺激があって飽きない仕事だなと思います。
あとは、音楽ジャケットのイラストとか、そういう芸術的な仕事だけじゃなくて、中には飲食店のTシャツの絵を描いたり…この前いただいたのは、落語家の方のグッズを作ったりとか。
普段だと関わる機会が少ない、色んな職種の方とやり取りやコラボができるのも、イラストならではで、楽しいなと思いますね。
―逆に、大変だと感じたことはありますか?
コウジマクルミ:やっぱり、イラストの描き直しや修正などは、なかなか終わりが見えない作業ですね。描き始めも、アイディアが降りてこなかったら描けないことが多いですし。
休みの日と仕事の日の区切りが明確に存在しないので、完全にプライベートと別にしたい方にとってはすごく大変かなとは思いますね。
―最後に、今後の目標や展望を教えてください。
コウジマクルミ:私がこれまでの人生で愛してきた映画だとか音楽とか、そういう様々なカルチャーの方たちとコラボをして、一緒に何かを創り上げたいなっていうのがずっと夢としてあります。
1個と言わず、何個もやっていきたいのですけど、そうやって、リスペクトしている人たちと仕事がしたいですね。
さらにそれらのカルチャーを、自分の絵を通して魅力を伝えることができたら、もっと嬉しいかなと思います。
あとは、海外でも個展とかをしたいなと思っています。
旅行も好きなので、国内外問わず色んな場所に行って、色んな人と触れ合いつつ、自分のイラストもたくさんの人に見てもらえたら嬉しいです。