自分の好きなものを描くのが怖くて、逃げていた時期があった
―現在の活動内容について教えてください。
おくいあむ:イラストを描いて、クライアントワークや展示会・即売会のイベントに参加させていただいています。
特に展示会などは今年(2025年)は結構詰めていて、ほぼ毎月参加みたいな感じになっているかもしれません。
10月にも京都のギャラリーにお声がけいただいていて、出展予定があります。
―イラストレーターとしてお仕事をしようと決心したきっかけを教えてください。
おくいあむ:元々は会社員だったのですが、コロナの時期、2020年頃にきっかけがあって辞めまして、そこから個人事業主の申請を出しました。
初めはクリエイターの登録サービスを介してご依頼を受けていたのですけれど、どんな画風のイラストを描いていこうかと迷っていたこともあり、ずっと試行錯誤をしていました。
実はようやく最近、今のスタイルに落ち着いてきたところなんです。
今のスタイルになってからは、結構反応もいただけるようになり、自信がついてきて…そこで「お仕事していこうかな」と考えて、やらせていただいている、という感じですね。
―ご自身の作品のスタイルや方向性は、どのように決められたのでしょうか。
おくいあむ:今の画風になる前は、おしゃれ系な絵を描いていました。
でも3年ほど前、ドット絵風の雰囲気を絵柄に落とし込んだ時期がありまして、その頃から今の画風に舵を切っていったんです。
本当は小さい頃から、童顔というか、ロリっぽい絵を描くのがすごく好きでした。
でも、それをいとこに見せた時に「こういう絵しか描けなくなっちゃうから、やめたほうがいいよ」みたいなことを言われてしまい…
恐らく、漫画家になるんだったら、みたいな部分を想定して言ってくれたことだとは思うのですけど、それが子供心に結構刺さって、自分が好きなものを描くのが怖くなってしまったんです。
結果、おしゃれ系な方向に逃げたと言いますか…
「私はおしゃれなものも描けるんだよ」みたいな感じで、やっていた時期がありました。
ただ、そんなふうに描いていても、だんだんと天井が見えてくるんですよね。
ある日「自分の中に『おしゃれ』はない」ということに気が付いて、そこで思いっ切り舵を切っていきました。それが3年ほど前です。
根底にあった封印を解いたような形ですね。
―なるほど。その封印を解くきっかけというものも、何かあったのでしょうか。
おくいあむ:画風のことで迷っていた時期に、フォロワーさんがDiscordに招待してくれたんです。
そのDiscordの目的が『1ヶ月で、何でもいいから100枚模写する』みたいなスパルタプログラムで、一緒に参加させてもらいました。
そこで「可愛いものを描きたいから、可愛いものを模写していこう」と思って…
『男の娘』の写真って、めちゃくちゃ可愛く計算されて撮られていますから、ここからちょっとエキスをもらおう、みたいな感じでいっぱい模写していったんです。
そこがひとつのきっかけでしょうか。
あと、そのDiscordに参加したこと自体も良かったなと思っていますね。
SNSって、すごく広い世界じゃないですか。いきなりそこに絵を出して認められるのは、だいぶハードルが高いと思うんです。
なので、まず小さなコミュニティから自信をつけないと難しいな、ということにもそのDiscordで気付かせてもらって…
その流れのまま、別の創作系のDiscordにも参加させてもらい、自己肯定感を高めるために作品を発表して、どんどん自信をつけていきました。
そうして土台ができてから、SNSにも投稿するようになって…という流れでしたね。
―ちなみに、ドット絵風のスタイルがいいなと思ったのも、何かきっかけがあったのでしょうか?
おくいあむ:実は私、お絵かき掲示板の描き心地がめちゃくちゃ好きなんです。
昔あった大型お絵かき掲示板のペンが、とてもバケツ塗りとかしやすくて。
私は学生の時にペンタブなどを持っていなかったので、マウスで描いてたのですけど、マウスで描くとめちゃくちゃ慎重になりますので、綺麗な線が引けたんですよ。
すごく楽しくて…
ふと、その頃の『バケツ塗りができる線画』を描きたいな、と思った時に、今のスタイルにたどり着いた感じです。
あと、私はゲームをプレイするのも好きなので、ゲームっぽい絵もいいな、っていう想いもありましたね。
尖ることの大切さと、好きなものを描いていいんだという励み
―作品を描くにあたって大切にしていること、意識していることがあれば教えてください。
おくいあむ:1枚の絵の中で『見せるもの』を絞るというか…視点やルールを決める、ということでしょうか。
『その作家独特の作品』と感じてもらえるようには、意識しています。
私は結構、言われれば、割と何でも描けるタイプで、以前はそれが自分の中で強みだと思っていました。
でも、「何でも描けるっていうのは、結局何にも描けないっていうことと一緒だな」と思うようになったんです。「その作家が描いたものだよね」と感じてもらうようにしなければ駄目だな、と。
描けないものがあることは恥ずかしいことだ、みたいな考えが自分の中にあったので、初めは描けないものを潰していくようなことをしていたのですけど。
でも、それってすごくしんどい上に、自分の強みを鍛えられてはいないじゃないですか。
なので、強みを鍛えるほうに時間を使わないと、と思い始めてからは、自分の武器を尖らせる方向にシフトしていきました。
私は指先を描くのが結構苦手なので、萌え袖にしたりとかしているのですけど、でも、「それが可愛いからいい!」というふうに自分の中で取捨選択をしてやっているという側面もあるんです。
そういうふうに、尖らせる部分を尖らせていく、というのは、イラストを描く上で大切かなと思っています。
―影響を受けたクリエイターさんはいらっしゃいますか?
おくいあむ:藻前まっくさんと、OSAけ(ちゃん)という方ですね。
先の回答でお伝えした『尖ることの大切さ』や『好きなものを描いていいんだ』という部分で、影響を受けています。
藻前まっくさんは、可愛い女の子を描かれる方なのですけれど、色合いなどでアンダーグラウンドな感じの雰囲気を出されていて。
線画や塗りの『精密さ』というより『全体的なまとまりや世界観の表現が非常に素晴らしく、雰囲気が抜群に良いんです。
しかもお顔が可愛くて、ドアップが多いんですよね。全部が全部というわけではありませんが、「カワイイお顔至上主義」みたいな一種の潔さのある作品がとても衝撃的でした。
「私もこういうふうに好きなものを、自分がいいと思っている部分を、どんどん伸ばして描いたほうが絶対いいに違いない」と思えたのは、間違いなく藻前まっくさんのお陰です。
OSAけ(ちゃん)はもう、単純にイラストがめちゃくちゃ好みで可愛いですね。
「こういうバランスの顔でイラストを描いても、ちゃんと格好良くなるじゃん」って感動しましたので、童顔のイラストを描く怖さがなくなったのはOSAけ(ちゃん)のお陰だと思います。
それから、あともう1人。活動指針みたいなところでは、NONNKIさんという方にも影響を受けています。
NONNKIさんは毎回、イラストを上げる度にたくさんの反応を得ておられるのですが、その上で、すごく貪欲に創作活動をしておられるなという印象を受ける方でして。
過去の作品も繰り返し積極的に発信されていて、惜しげもなくSNSに投稿されてる様子が素敵だし気が引き締まる思いです。
「これくらい情熱と粘り強さを持っていいんだ」という励みになっていますね。
―ありがとうございます。では、画力や作品のクオリティを上げるために意識していること、おすすめの方法などはありますか?
おくいあむ:さいとうなおき先生の『3ヶ月上達法』をやったことがありまして、それはすごく良かったです。
私は1ヶ月半ぐらいで止めてしまったのですけど…内容としては、自分の尊敬する、もしくはこの絵柄になりたいと思う作家さんの絵をひたすら模写して、その模写した絵と見比べてどこが違うのかを自分で添削する、という方法なんですよ。
続けていけば、自分の描く絵が、自分の好きなバランスにどんどん近づいていく、という。
模写って、自分のいいところや個性が消えてしまうのではないかとか、そういう怖さがあるかもしれないのですけど、さいとう先生は「そんなことは全然ないよ」とおっしゃっていたんですよね。個性などは勝手ににじみ出てくるから、模写しても大丈夫、と。
それならやってみようかな、と思って3枚ほど描いて…私の場合は、そこで本当に何となく「もう、いいかもな」と思って止めたのですけど、今でも印象に残っています。
ちなみにその時は、日向悠二さんの作品を模写させていただきました。
日向悠二さんのイラストは、キャラクターに角度がついていて、奥行きが感じられるのですけど、その『奥にある足』などのパーツが真っ黒に塗り潰されたりしているんですよ。
その表現が、奥行きもすごく感じるし、アメコミ的な雰囲気も感じるしで格好良くて、自分の絵にも採用しています。
オリジナリティのあるユニークな個展を開いて、もっと認知度を上げたい
―現在は、どのようにお仕事を取っているのでしょうか。また、お仕事を受ける際の優先順位などもあれば、教えてください。
おくいあむ:現在は主にX(旧Twitter)のDMでいただくことが多いですね。
プロフィールにメールアドレスも載せていますので、そちらでお話をいただくこともあります。
お仕事の優先順位を決める際には、特に初めてご依頼いただく方には、今回のご依頼内容について簡単なアンケート形式でお伺いしています。その際に、内容やコミュニケーションのやり取りに少しでも違和感がある場合は、慎重に判断させていただくようにしています。
―では、絵をお仕事にしていて良かったことを教えてください。
おくいあむ:イベントなどへ出店した時に、来てくださるお客さんが生のコメントをくださるのは、すごく励みになります。
自分の絵を好きになってくれた方がいたんだ、と実感できますし、「好き」と言ってもらえるのは、やっぱりすごく嬉しいです。原動力にもなりますね。
あと、以前VOCALOIDの曲を作っておられる方から依頼を受けたことがあるのですが、お相手が「私、この方の曲が好きで聞いてた!」という方だったので、それもすごく嬉しかったです。
―逆に、大変なことはありますか?
おくいあむ:1人でやっていることで生じる大変さ、みたいなものは結構ありますね。
1人で判断できないことに関して相談できる相手がいなかったり、愚痴を言える相手がいなかったり。会社勤めの時は友人に愚痴を聞いてもらっていましたが、あれはすごく良かったなと後で思いました。
コミュニケーションがうまくいかなかったときには、つい感情的になってしまうこともありました。そんなときは、同じフリーランス仲間に相談して、気持ちを整理しながら冷静さを取り戻すようにしていました。
でもその出来事がきっかけとなって、さっきお伝えした『アンケート』を作ったり、業務的に改善していけたのは良かったなとは思っています。
あとは、確定申告とか。
それまでいかに『会社』に守られていたか、という部分は痛感しましたね。
―最後に、今後の目標や展望を教えてください。
おくいあむ:最近うっすらと、自分のオリジナリティのある、ユニークな個展を開いてみたいな、と思っています。
できれば人目に付くような場所で開催して、もっともっと認知度を上げたいな、と。
あとは、原宿のラフォーレなどのデパートで開催されるような、催事のメインビジュアルを担当してみたいな、と思います。
それから、個人的に好きな中田ヤスタカさんのPVに採用されたら嬉しいな、とか。
叶うと嬉しいですね。