落書きから生まれた謎の生き物『ヨシダさん』
―現在の活動内容について教えてください。
椿野ワコ:ヨシダさんという謎の生き物と、猫や男の子の日常を描いたイラストを描いています。グッズを作ってポップアップショップを開いたり、百貨店や雑貨屋さんで委託販売させていただいたり、即売会に出店したりしています。
また今年の春から専門学校でイラストの非常勤講師をしています。

―なぜヨシダさんというキャラクター名になったんですか。
椿野ワコ:『ヨシダさん』は高校生のときに書いた落書きから生まれたキャラクターなのですが、近くに同じ名前の方がいなかったという理由だけで本当に適当につけた名前なんです。
―キャラクター自体はどのように生まれたんですか。
椿野ワコ: 高校の授業中、課題の提出が終わったらなんとなく落書きをする習慣がありました。家に持って帰ってその落書きを見た母から「これは犬?猫?それともブタ?」と聞かれたので、適当に犬とか猫とか答えていたのですが、いつのまにか何でもない謎の生き物になっていました。
そんな風にふわっと生まれたのがヨシダさんです。
あきらめた道も、今の道に生きている
―絵を仕事にしようと決心したきっかけや理由を教えてください。
椿野ワコ:小さい頃から絵が好きで、家に引きこもって絵を描いていました。高校へ上がるぐらいに音楽に没頭していた時期があり、悩んだ末一旦絵を置いて音楽の専門学校に入りました。
卒業間近で予定していた進路が全て立ち消えてしまい、行くあてもなく卒業後は2年弱の間飲食店でアルバイトをして過ごしていました。その期間も絵は趣味としてずっとSNSにアップしていて、そこで繋がったシンガーソングライターの友人に「自分の曲でアニメーションのMVを作ってくれないか」と頼まれたのがきっかけで絵の仕事を始めました。音楽を学んでいたことも役に立った瞬間でした。
―自分の作品の方向性はどうやって決めましたか。
椿野ワコ: 高校生ぐらいのときから路地裏などいろんなところを散歩するのが好きで、歩きながら日常に溶け込むものをテーマにしようと考えはじめました。
色覚に敏感な所があって、濃い色を使うとたくさんの力を消耗してヘトヘトになっていることに途中で気づいて、絵を描いているときに自分が疲れないような淡い色味で描いてみようかと試行錯誤した結果、今のやんわりした作風にたどり着きました。

つい立ち止まりたくなる違和感を
―絵を描くにあたって大切にしていることや意識していることを教えてください。
椿野ワコ:出店、展示しているときに通りがかった人が見て、面白い違和感を覚えて立ち止まってくれるような絵を意識しています。

―面白いと思わせる絵はアイディア勝負なところがあると思いますが、アイディアはどこから得ていますか。
椿野ワコ:スーパーのお野菜を眺めたり、ご飯屋さんを見て回ったり日常生活をしている中で、他の人の作品にありそうでなさそうなものは無いかいろいろ考えています。
『ヨシダさん』がこんなところ歩いてたら面白いかなとか、何の変哲もないこんなところにいたらちょっとクスッと笑えるかもみたいな、ちょっとした違和感とかわいさを出せるようにしています。
―影響を受けたクリエイターはいますか?また、どんな点で参考にされていますか?
椿野ワコ:クリエイターさんというより作家さんなのですが、クレヨンしんちゃんがすごく好きで、小さい頃にレンタルビデオ屋さんで何十回も借りて見ていました。大人になっても変わらず大好きで、しまいには映画のコンプリートセットを買ってしまったぐらいで。特に初期〜2000年あたりの映像が好きで、懐かしい感じはするけどちょっと寂しいみたいな雰囲気があって、その絶妙な空気感に大きな影響を受けています。
―画力を上げるために実際にやったことやおすすめの勉強方法はありますか?
椿野ワコ:とにかく目に入ったものをひたすら模写していました。天井でもいいし、電球でもいいし、壁の木目でもいいし、なんとなく目に入ったものを全部描いていました。
背景描写やパース法などを理解するのが苦手だったので、お散歩をしているときに好きな風景を見つけたら写真を撮って、全部模写してみたり。
感覚を先に身につけていくと、ゆっくりではありますが難しい理論もわかるようになってきました。

—現在、どうやってお仕事をとられていますか?また仕事が増えてきた際にどのような基準でお仕事を選ばれていますか?
椿野ワコ: 基本はSNSで募集をかけてお仕事をいただいています。
仕事が増えてきたりスケジュール上厳しかったりしたときは、クライアントが望むイラストの系統が自分のイラストと合うのかをしっかり考えて、自分よりも他に合うイラストレーターがいると思った場合は、お断りするのと同時にそのイラストレーターを紹介してます。自分の作風とクライアントの望むものが本当に合致するかを重要視しています。
― 今はどんなお仕事がありますか。
椿野ワコ:初めは音楽系のCDジャケットやアニメーションMV、ライブフライヤー等が多かったですが今は食べ物のイラストが好評で、ケーキのメニューイラストやお食事のメニューイラストのご依頼、グッズデザインなどのお仕事をいただいています。
―クリエイターとして活動する上で不安はありましたか?また、どのように向き合ってこられましたか?
椿野ワコ:やはり資金面が不安でした。
初めはイラスト業一本でやっていこうと思っていたのですが、月々の収入に波があって、金銭面が不安定になったことをきっかけにメンタルや体調を崩すことがよくありました。
途中で短期のアルバイトに入ってみたのをきっかけに、そういった仕事をいくつも掛け持ちするようにして、今も万が一収入面で困ったときはすぐ働けるようにしています。
今の時代、二足のわらじを履いている方は多くいらっしゃると思います。まず自分が安心して生活しながら創作ができる環境が一番いいと思っているので、なるべく行き詰まらないように、自分を大事にしながらこれからも創作に向き合っていこうと思います。
―絵を仕事にしていてよかったことと大変なことを教えてください。
椿野ワコ:作品を手に取ってくれた人の顔を見ると、続けててよかったなってなりますね。黙々とひとりで作業をするのは好きなんですけど、急な孤独感でワーッと焦ったり落ち込んだりすることも度々あって。そこのコントロールは大変だけれど、それを乗り越えてイベントに出てお客さんが会いに来てくれた瞬間、それまでのきつかったことすべてが吹き飛びます。本当にありがたいことです。
―家で1人お仕事していて行き詰まったとき、どうやってリフレッシュされていますか。
椿野ワコ:美味しいものを食べる。食、大事です。作業道具を持って遠出して、作業がそんなに進まなくても(笑)ちょっと美味しいものを食べてお家に帰ると、いつのまにか気持ちがリセットされています。

―最後に、今後の目標や展望を教えてください。
椿野ワコ:誰もが聞いてあーっ!と分かるような代表作、代表的なお仕事を受けることです。
他にも色々ありますが、『ヨシダさん』がガチャガチャになってお店に並んでほしい。映像作品に自分が作ったグッズが使用されていたり、本の装画のお仕事をすることも目標です。

