何となく近所のお絵描き教室に通い始めたことが始まりだった
―現在の活動内容について教えてください。
サチコ:主に1次創作のイラストや小説をSNSに投稿しています。
最近では、自分の服や日常などを絵日記みたいな感じで描いて投稿していますね。
それから、オリジナルグッズやイラスト本を作って、定期的にコミティアなどのイベントで販売していますし、BOOTHなどを使ったネット通販もしています。
他にも、今年(2025年)4月には個展を開催させてもらいまして、9月にはグループ展にも参加させていただきました。
そういった展示にも力を入れるようになってきていますね。
―とても精力的に活動されていらっしゃるのですね。
サチコ:そうですね。とはいえ、実は4月の個展で1回燃え尽きてしまった側面もあり、その後3か月ほど全然描かなかった時期もありました。
8月にようやく描き始めて…もう今年はイベントや通販も何もしないぞ、と思っていたのですけど。
結局、その何もしない状態に耐えられなくなり、9月のグループ展に主催の先生からお誘いいただいていたこともあって、参加させていただいた次第です。
以降、11月にまた東京で開催されるコミティアにも参加させてもらう予定になりました。

―イラストレーターとしてお仕事をしようと決心したきっかけを教えてください。
サチコ: 4歳からアトリエに通わせてもらっていますので、本当に長く絵を描き続けていますね。小学校卒業まで、8年間ほどアトリエに通っていました。
他にもバレエや水泳など、色々体験させてもらったのですけど、私はとても頑固で、人の言うことを聞くことが全然できず…。
なので、絵以外のことは、もう体験参加の時点で辞めてしまっていたんですよ。
そんな中、通っていたアトリエは、先生が指導するタイプではなく、「自由に描いていいよ」と子供の感性に任せてくれるスタンスでしたから、すごく肌に合っていたんです。
だからこそ8年も続けられたのですが、お陰で中学生になってアトリエを辞めた後も描き続けていましたし、その頃から「自分はこれからもずっと描き続けて、その内お金ももらえるようになるだろうな」ということを、何となく考えるようになっていましたね。
恐らくもう、絵を辞める、という選択肢がなかったんだと思います。
それで高校生の時にX(旧Twitter)を始めて、『手の描き方』みたいなものを投稿したんですよ。自分なりにこうやって描いていますよ、と。
それがすごくバズりまして…調子に乗って手のイラストをまとめた本を作ったのですが、最終的に500冊ぐらい売れました。
当時16、17歳くらいだったのですが、結果として数字が出たので「やっぱり自分は絵で活躍できるようになるだろうな」と…。
以降、そのままイベントや通販を続け、今に至っている、という感じです。
―なるほど。ちなみに、アトリエに通い始めたのは、ご自身が通いたいとおっしゃって?
サチコ:いえ、確か母に連れて行ってもらったことがきっかけだったと思います。
その時はまだ、私がずっと家で絵を描いているから、といったことでもなく…
「ちょっと何かやってみようか」といった感じで、近所の子供達が通うお絵かき教室みたいなアトリエを、見学させてもらった形でした。
幼すぎてあまり詳しくは覚えていませんが、そんな流れで「やってみる?」と聞かれて、「やろうかな」という感じだったと思います。
―ありがとうございます。では、ご自身の作品スタイルや方向性については、どのように決められましたか?
サチコ:本当に小さい時から描いていましたから、恐らく「こうしよう」と思って決めたことは、ほとんどなかった気がします。
でも、小学生くらいの時からストーリーを考え始めて、自分の中でキャラクターを作るようになり…その当時から考えていたキャラを今も描き続けている、という感じなんですよ。
高校生の時に作ったキャラなどもいますし、最近増えた子もいますけれど、方向性としては自然とそうなっていました。
それから、この2、3年…専門学校に入った後、社会人になってからは、自分のことも結構描くようになりましたね。
アルバイトの記録や季節ごとの私服の紹介などをSNSに投稿していたら、結構いろんな人に見てもらえて、需要があるんだなと感じました。
最近は頻度が減ってしまっていますが、それでもこれからも、季節ごとに定番化して更新していけたらなと考えています。
自分の絵に、不安を背負わせたくない
―作品を描くにあたって大切にしていること、意識していることがあれば教えてください。
サチコ:精神的な話になりますが、絵は恣意的といいますか、1人で始められて1人で完結できるものなので、私の場合はもう自分勝手に、描きたいものを描いて、描きたくないものは描かない、というスタンスで活動をしています。
私は、生活の安定だとかメンタルヘルスの部分を、自分の絵に背負わせたくなくて、兼業をしているんですよ。
絵を描くことがすごく好きで、愛しているからこそ、絵を描く活動に不安を感じたくない、という気持ちが強いんです。絵を描くことでは絶対に「つらいな」「しんどいな」「収入が不安定でこの先が不安だな」ということを、一切感じたくないんですよ。
絵の関係でお世話になった方々には度々専業は考えてないのかと聞かれますが、自分の性質的にもあまり自信がないです。「向いてない」というのが率直な意見ですね。
ですから、安定してお金が入る事務仕事をしながら、絵のほうは趣味として描いています。
お金をいただいている上では趣味を越えている部分もありますが、それでも、絵の仕事に左右されて生活も心も揺れることにはならないように活動していますね。

―影響を受けたクリエイターさんはいらっしゃいますか?
サチコ:そうですね…人物を描くようになったのが、中学生からなのですけれど。
それまではずっと棒人間しか描けなかったので、人物を描く練習として、宮原るりさんの『僕らはみんな河合荘』という漫画を、模写させていただきました。
今は実在のモデルさんの写真などを参考にさせてもらっているのですけれど、私が小中学生の頃は、まだ皆がスマホを持っている時代ではなかったので、所持している漫画などを使っていたんです。
ですので、私の場合は『僕らはみんな河合荘』の体だけを模写して、顔は自分のキャラクターにする、みたいな練習方法で描いていましたね。
体だけ模写していたのは、全部を真似してしまったら自分の絵にできないというか、モノにできないのではないかと感じていたからです。
当時は「模写をしている=模写しないと描けない」と考えていたので、描けない自分を認めたくないというプライドがあったんだと思います。
頭やどこかしらで「真似をしていると言われないようにしなければ」という想いがあったんでしょうね。
ですから語弊があるかもしれませんが、宮原さんの絵が好きで真似をしたかったというわけではなく、自分の絵を上達させたくてしていた練習でした。
根幹的に『宮原さんのような絵』しか描けなくなるのを避けたかった、というのもあると思います。
模写を続けた後は、次いで軽く腕の上げ方を変えてみたり、逆にポーズはそのまま服だけ変えてみたり、と描ける範囲をどんどん広げていきましたね。
それから、私は小説も書いているのですけれど、綿矢りささんと最果タヒさんの作品は、キャラの性格を考えたり、小説を書いたりする時に、とても参考にさせてもらっています。
このお2人の作品は言葉が鋭いといいますか、良い意味でプライドを傷つけられたり、図星を突かれたりする感じがあるんですよ。
「普通そこは思っていても口に出さないでしょ」みたいなことを遠慮なく言う感じがあって。
あまり触れられたくない、ちょっと繊細なところというか、思春期の子供の心情描写がすごくお上手で…私も中学生・高校生くらいのキャラを書きますから、その辺りは本当に参考にさせてもらっています。
あと、上ノ句さんという友達がいて、かなり刺激を受けています。同じ専門学校出身だったり、コミティアなどの参加するイベントが同じだったりと、なにかと活動内容が似ているんです。会話してるだけでも新しい知識を得られるというか…。
「よく分からないからとりあえずやってみるか」と手探りで物事を進める私とは違って、上ノ句さんは色んなことを慎重に考えて、徹底的に調べて、ベストを出すための努力を惜しまないところは本当に尊敬しています。とにかく知識量がすごいですね。
私も何かやらなきゃ…休んでちゃダメだ。って気持ちが駆り立てられるんですよ。とは言いつつしっかり休むんですけど。
私もそっち側に立ちたい!と思わせてくれるカッコイイ人です。
―画力や作品のクオリティを上げるために意識していること、おすすめの方法などはありますか?
サチコ:私自身、キャラを描くのが好きだからこそ思うのですが、キャラを描けるようになりたい方は、顔だけや肩までではなく、最初から全身を描けるように練習することをおすすめします。
顔ってキャラを描く上で一番よく描かれますし、二次元だし、大抵の人はすぐ見本なしで手癖で描けるようになると思うんです。逆に身体は頭で想像しても出力することが難しいので、私も模写やクロッキーなどで全身を描く練習から始めました。
先ほどの回答と重複しますが、そうして模写した後、手だけなど小さな範囲を自分なりに変えてみる。ある程度描けるようになったら、ポーズだけ参考にして、服や足の曲げ方、靴などを変えてみる。
それから私の場合、途中から漫画などを使わなくなり、ファッションモデルの写真やポーズ集などを見て練習するようになりました。だって実在の人間には『嘘』がないではないですか。
初めは誰かの絵などを見て練習する人が多いと思いますが、やはりある程度描けるようになってきたら、実際の人間をモデルにさせてもらうのが良いように思います。
あと、今はiPadや液タブを使ってる方が多いと思うのですけれど、デジタルでなくアナログで描く練習をしてみるのもおすすめです。私自身、PCを持ったのが高校生くらいの時でしたから、それまではクロッキーなどを英語の紙や学校で配られたプリントの裏などに毎日、10時間以上ずっと練習していました。
デジタルって、ちょっと言い方が悪いですけれど、『楽』ができるので…(笑)
イラスト制作ソフトには素材がたくさん配布されていますし、修正がいくらでも簡単にできますから、それらが難しいアナログだと今の実力が顕著に現れる思うんですよね。
人によって絵の癖はあると思いますが、画力を上げたいと思うのなら、鉛筆や絵具にも挑戦してみてほしいです。
それに、色々扱えるようになれば絵を楽しむ範囲が広がると思いますよ。

自分の絵が、誰かの生活の一部に溶け込んでいる幸せ
―現在は、どのようにお仕事を取っていらっしゃるのでしょうか。また、忙しくなった際に受けるお仕事の優先順位などもあれば、教えてください。
サチコ:基本的にskebでご依頼をいただいていて、たまにSNSのDMからMVイラストを描いて欲しい、という依頼などもいただきますね。
あとはSNSを通して私を知ってくださった企業様が、メールでご依頼をくださる、という感じです。
私の場合は自分から営業せず、そうやってご連絡くださった方の中から選んでいますね。
元々自信がないというか、期限内に終わらせるのが苦手で、「別にそれ、私でなくても良いんじゃないかな」というものも結構あり…これまではお断りしていたんです。
なので、依頼を受けるようになったのが今年からでして、まだあまり手いっぱいになるほどの経験はありません。
だからこそ、個人の方からのご依頼は、基本的にすべて受けています。
その上で、企業様からのご依頼は、やっぱり自分の活動方針に合っているかどうかを重視しますね。
キャラクターを描くのが得意ですから、そういったものを描かせていただけるお仕事は受けますし、逆にそうでないものは、自信がないですし、自分も満足できないのでお断りさせていただいています。
基本的には自分の心のままに!というスタンスです。

―クリエイターとして活動する上で、不安などはありましたか?
サチコ: 4歳から描いている分、自分のことを大ベテランと思っていますから、あまり不安はありませんね。
でも強いて言えば、あまり個性がないということでしょうか。自分の絵を一言で表現するなら何ですか、と聞かれた時に、どう答えたら良いのかがいつもわからないんですよ。
『病みかわ』とか『レトロポップ』とか、色々言葉はありますけれど、自分の絵のモチーフやテーマが何に当てはまるのかが、今でもあまりわかっていません。
まぁ、今はバラバラかもしれませんが、確率の収束みたいにいつかひとつのものに落ち着く日が来るかもしれませんし。
線がないとか、めちゃくちゃリアルな馬の絵を描くとか、好きなものを好きなように描いていますから…。
そういう『バラバラさ』こそが自分らしさなのかもしれないと、そう考えるようにしています。
すぐに解決しないことは考えても仕方がないと思っているので、ここに時間を使うのはやめよう、と切り替えていますね。
―ありがとうございます。では、絵を仕事にしていて良かったことを教えてください。
サチコ:最近は自分の絵が、誰かの生活の一部になってるなと実感しています。
私は本当に、絵で褒められたことが全然ない子供だったんです。
子供ってすごく素直で、お世辞が言える年齢でもありませんから、上手くないと褒めないじゃないですか。小中学生の頃は、描いてもすごく馬鹿にされていました。
夏休みの自由工作で頑張って作った作品を、学校に持って行ったらその日に壊されている、みたいなことも普通にありましたから、学生の間はずっと、私の作品はそういう扱いをされても仕方がないレベルでしかないんだ、と思っていたんです。
自信がなかったわけではないのですけど、他人にとってはそれぐらいなんだろうな、と。
でも最近は、「テーマパークに行ったらサチコが作ったトートバッグを使っている人がいたよ」と友人が報告をくれたり、専門学校の先生が「働きながらイベントに出ているサチコさんをロールモデルに、『そういう選択もありますよ』と学生さんに話しているんだよ」と教えてくださったり。
そうして誰かの生活の一部に溶け込んでいることが、自分でも結構すごいなと思っているんです。
今までは他のクリエイターさんから影響を受ける側だったのが、今度は影響を与える側になっているというのが、「自分、よく頑張ったじゃん」と思えて、本当に嬉しいですね。
―逆に、大変なことはありますか?
サチコ:人を頼ることがなかなかできない、という部分でしょうか。
「こういうことをしたいな、始めたいな、作りたいな」と考えた時に、何から始めればいいのか、どこをどうやって調べればいいのかを聞ける相手が、全然いないんですよね。
訊ねる=努力を怠っている、みたいな空気がちらほらあるので…(笑)
でも個展やってみたいなと思ったときは、展示会の経験が豊富な先生に相談して、すぐにギャラリーを紹介してもらえたんですよ。
だから最近はイチかバチか頼んでみるか…!とドキドキしながら連絡してますね。

―それでは最後に、今後の目標や展望を教えてください。
サチコ:クリエイターとしての活動方針は、兼業という現状で満足していますから、しばらくはこのままでいいかなと思っていますね。
ただ、今まではコミティアなどのイベント出展だけだったのですが、今後は個展やグループ展なども積極的に、最低年に1回は定期的に開催できるようになりたいです。
それから、やっぱり小説やエッセイがすごく好きで結構読みますから、いつか表紙を担当したいですね。

