紆余曲折の末、久しぶりに絵を描いてみたら沼にはまって今に至る
―現在の活動内容について教えてください。
三一一〇休符:デジタルイラストを中心に、アニメーションやミュージックビデオ制作で動画編集などもおこなっています。
加えて、CDジャケットやライブグッズ制作など、最近は本当に音楽に関するイラストを描かせていただくことが増えていますね。
あとは、自主制作で画集やグッズ制作もしています。

―動画制作に関しては、いつから活動を始められたのでしょうか。
三一一〇休符:私は2022年くらいから依頼を受け始めているのですが、その頃、まったく何も知らない状態で、パラパラ漫画感覚の3秒くらいの動画を作って公開したことがあったんです。
そうしたら、それを見てくださった方からMV制作のご依頼をいただいて…
MVなどは作ったこともありませんでしたし、3秒からいきなり3分程度にボリュームが増大するしで、正直パニック状態でしたね。
それから自力で調べまくりまして、あとはSNS上の知り合いにMVを制作している方がいたので、その方にツールのことなど根掘り葉掘り聞いて、頑張りました。
CDジャケットのご依頼などは以前からいただいていたのですが、動画関係に関しましては、そこから新たにご依頼が増えていった、という感じですね。
―ありがとうございます。では次に、イラストレーターとしてお仕事をしようと決心したきっかけを教えてください。
三一一〇休符:芸大を卒業した後は、京都のガラス工房で何年か働いていました。
ですが働く中で、ガラス工房ではとても動きが重要になる、左腕を壊してしまったんですよ。
その後、休職したり復帰をしたりしていたのですが、なかなか思うようにいかず…結局退職をしまして、地元の大阪に帰ることになりました。
それからは、とりあえず働かなくてはと思い、学生の頃にアルバイトをしていた近所の福祉施設で、非常勤職員として働き始めました。
とても良い職場で、やり甲斐もあったのですが、それまでずっと毎日物作りをしていたので、何も作らずに終わる、という日々が全くしっくりこなかったんです。
家に帰った後の虚無感が、とてもすごくて。
しばらくは騙し騙し働いていたのですが、結局は電車の中で苦しくなってしまったりして、今から4年ほど前、また休職をすることになりました。
そうして休職している間に、外に出る元気はないけれど、何もしないのも暇だな、と思って絵を描くようになったんです。
絵自体は趣味として以前から描いていましたが、しばらくまともに描いていなかったからか、急速に沼にはまっていきましたね。
そこからSNSにも投稿するようになり、現在に至っている次第です。
なので、何か決心した、ということはありませんでしたし、大きくバズったりもしていないのですが、地道に伸びていって、気付いたらこのようになっていた、という感じですね。

―ご自身の作品スタイルや方向性については、どのように決められましたか?
三一一〇休符:私自身、結構クールに見えて間抜けな性格をしておりまして、「人より上手くいかないな」ということが多いんですよ。
ただ、そういうのも面白いな、独自の視点で描けたら良いな、とだんだん思うようになりまして、今のような方向性になりました。
絵が上手い人はもう、たくさんいらっしゃるので、私の場合は、どこかヘンテコな風合いが出せたらいいな、とか。
少し線が歪んでいたり、色がくすんでいたりするのもそうですけれど、オリジナルのキャラクター設定も、ポップな見た目に反してストーリー的には一筋縄ではいかない、みたいな感じとか。
一見良く見えるんだけど、なんだか妙だなとか、どこかヘンテコだなという感覚が表現できたらいいなと思って描いています。
キャラクターを作り、そのキャラクターの背景を考えるのが好き
―作品を描くにあたって大切にしていること、意識していることがあれば教えてください。
三一一〇休符:私は、妄想をする時間がすごく長いんです。
描く景色とか、登場人物の風貌とか、その形をしている理由とか、関係性とか…
くだらないことでも何でも、誰に言わずとも、自分の中で物語的なモノを持つようにしているんです。
ストーリーから出来上がっているものもあれば、気ままに描き進めてストーリーが出来上がることもありますから、すべてガチガチに意味を固めてから描くわけではありませんけれど。ただ私の場合、物語があったほうが何を描きたいのか、描くべき要素が何なのかが見えやすいという感覚がありますので、そういった『ストーリー』を大切にしていますね。

―面白いですね。では、影響を受けたクリエイターさんはいらっしゃいますか?
三一一〇休符:ムーミンがすごく好きなので、トーベ・ヤンソンさんからは影響を受けていると思います。
キャラクターのフォルムや愛らしさ、独特な造形、見た目の可愛らしさに反してすごく毒舌だったりするギャップなど、結構参考にしていますね。
―なるほど。ちなみに先の質問で、物語を考えることについてお答えいただきましたが、その辺りも何かルーツがあったりするのでしょうか。
三一一〇休符:ムーミンの小説などは集めていますね。それ以外でも、本を読むのは好きかもしれません。
とはいえ勉強熱心とか、そういったわけではなく、好きなものしか読んでいない感じではありますし、どちらかといえば、キャラクターを作るのが好きで、そのキャラクターの背景みたいなものを考えるのが好きなんですよ。
この人は何故こんな人なんだろう、どういう生活をしてきたんだろう、どういう人生だったんだろう、みたいなことを考えていく内に、背景などが構成されていきます。
ですので、最初から小説らしい文章が思いつくわけではなく、何気なく気になった要素から、暮らしの具体的なイメージを連想していく感じですね。
―ありがとうございます。では、画力や作品のクオリティを上げるために意識していること、おすすめの方法などはありますか?
三一一〇休符:絵を描きながら、何となく「仕事に繋がったら嬉しいよね」とは思っていましたし、私の場合は音楽がすごく好きなので「いつかCDジャケットを描けたらいいな」と思っていました。
なので、とりあえず自分の好きなCDジャケットを毎日1枚ずつスケッチしていた時期がありました。
いつでも気軽に描けるよう、手のひらサイズのノートを持ち歩いて、気が向いた時に1枚は描く、みたいなことを、ノート4冊分ぐらい続けましたね。
あとは、フィルムスタディーというのですかね。
MVなどを作るようになってからは、好きな映画を観て、気になったシーンを一時停止してスケッチする、ということもやるようになりました。
自由度が高いからこそ、人としての生活を保つためにWワークをする
―現在は、どのようにお仕事を取っていらっしゃるのでしょうか。また、忙しくなった際に受けるお仕事の優先順位などもあれば、教えてください。
三一一〇休符:ご依頼を受け始めた当初から今も、特に営業メールをどこかに送ったりしたことはなく…
SNSに記載しているメールアドレスに届いたご依頼の相談に応える、といった感じです。
優先順位は…そうですね。
今も週に数日、施設で非常勤職員をしていて、日頃は認知症の祖母のサポートをしたりもしているので、絵を描く時間を確保するのが難しいことがあるんですよ。
なので本当に、スケジュールが空いているかどうか、という部分で判断しています。
選ぶというよりは、完全にタイミングの問題で対応できるか否か、という感じですね。
特に音楽関連のお仕事は、すごく短期納期が多いんですよ。1ヶ月でMVを1本、とか。
できるだけ、したことのないお仕事でも前向きに検討するようにはしているのですけど、お受けした後でお待たせするわけにもいきませんから、本当にタイミングですね。

―クリエイターとして活動する上で、不安などはありましたか?
三一一〇休符:ご依頼に関しては、ずっと不安を抱えています。
クライアントさんときちんと意思疎通ができているのか、きちんと意図を汲み取れているのか、とか。
あとは、アニメーションやMVに関しては、動画編集を独学でやっていますので、コンテなどでイメージができたと思っても、実際の作品としてはきちんとモノになるのか、とか。
考えるのは楽しいのですが、形に落とし込めるのかという不安がいつもあります。
ひとまず普段は、自分の考えていることがご依頼者さんの思い描くイメージとかけ離れていないかの確認と、軌道修正を速やかにおこなうことで何とか対応していますね。
制作ソフトの操作面でもまだまだ未熟で、知らないこともたくさんありますから…
アニメーションの制作は、CLIP STUDIOで絵を描いて、動画編集をPremiere Proでおこなっているのですけれど、わからないことはフォロワーさんや詳しそうな友人に聞いたりして、何とかやっている、という感じです。
あと、映画にはカメラワークやら演出やら、動画制作に必要な大切なものがすべてひっくるめて入っている感じがするので映画から色々学んでいる部分もあるかもしれません。
ただ、逆に言えば、そういったご依頼部分の不安を除けば、今のところ他に不安はなく、とてもハッピーです(笑)
―ありがとうございます。では、絵を仕事にしていて良かったことを教えてください。
三一一〇休符:絵を描いている間も、独り言を言ったり、鼻歌を歌ったり、背中をポリポリ掻いたり、ラジオを聞いて笑ったり泣いたり…
とにかく自分がどのような状態であっても描けば絵になりますから、この自由度の高さは、仕事にしていて良かったなと思いますね。
―逆に、大変なことはありますか?
三一一〇休符:健康管理でしょうか。
没頭してしまうので、簡単に昼夜が逆転してしまうんですよ。運動不足もそうですし、ご飯を食べるのも忘れてしまうとか。
施設で働くのをやめない理由もそれと少し関係しているんです。
きちんと朝起きて、太陽を浴びて、少しでも体を動かしてご飯を食べて、夜は寝るという、そのサイクルを守って、人としての生活を維持するために頑張っています。

―それでは最後に、今後の目標や展望を教えてください。
三一一〇休符:これからも、自分の推しのアーティストさんと色々なお仕事をしたいな、と思います。
あと、私には現在1歳の甥っ子がいるのですが、その子がすごく可愛いんですよ。
それまで子供を可愛いと思ったことがなかったのに、甥っ子ができた瞬間に「子は宝なり!」と思うようになりまして(笑)
なので、その甥っ子が幼稚園や小学校に通うようになった時、教科書やノート、お菓子など、子どもが触れるものに関わる絵を描けたらいいな、と考えたりもしています。

