動物を描くのも女の子を描くのも、ただただ好きだった
―現在の活動内容について教えてください。
小林さゆり:最近は、絵本や子供向けの本の挿絵のお仕事が増えてきたかな、というところです。先日も一冊、絵本を出版させていただきました。
他にも『ハーベストの丘』のお土産パッケージイラストなど、企業様からのご依頼でイラストを描いています。
それから、合間に猫ちゃんイベントやLOFTさんで行われるアーティストイベント用のグッズを作って、委託で展示販売に出展させていただいている、という感じです。
あとは、さらにその合間に、という形ですが、個人様からの依頼で絵を描かせていただくこともありますね。

―長く活動されていると伺いましたが、どれくらいになるのでしょうか?
小林さゆり:活動自体は、もう15年ぐらいになるかも知れません。
ただ、ちゃんと企業様から仕事がもらえるようになるまで、時間がかかっていますから…企業様の案件を受けられるようになり始めたのは、10年前くらいでしょうか。そんなですので、じわじわ長く続けているだけ、という感じですね。
皆さんが一般的にイメージする『イラストレーターさん』みたいになれているのかどうかは、今でもちょっとよくわかりません(笑)
―充分なれていますよ!(笑)今のように、イラストレーターとしてお仕事をしようと決心したきっかけを教えていただけますか。
小林さゆり:絵を仕事にしようと思ったのは、美大に進学したことがきっかけでしたね。
進路で悩んだ後、絵の大学に行こうと決めて入った時点で、「私はここで勉強するんだから、就職先もやっぱり絵を描く方面にしたい」と考えていました。
それで実際、就職活動を始めたのですが…就職氷河期だったもので、どこもかしこも難しい状態の中で受かったのが、テレビゲームのグラフィックデザイナーだったんです。
そこで数年働いたのですけど、ゲームのグラフィックは、そのゲームの世界観の絵に合わせて描くわけですから、自分の絵柄は完全に消して作っていかなければいけませんでした。
それをずっと続けていた結果、途中でやっぱり『自分の絵』も描きたくなり…
なので『自分の絵』を描いて、神戸の個人経営の小さな雑貨屋さんなどに「ちょっとポストカードを置いてもらえませんか」とお願いしてみたんです。
そうしましたら、結構置いてくださるお店が多くて、しかも割と反応も良かったんですよね。自分の絵で活動した時の嬉しさを身に染みて感じている時期に、ちょうど祖父母の介護や自分の結婚など色々重なった時期がありまして。その時に会社をやめたので、家の事をしつつイラスト活動を開始しました。
―ご自身の作品スタイルや方向性については、どのように決められましたか?
小林さゆり:実は自分で決めようと思って決めたわけではなく、描いていたらこうなった、としか言いようがないんですよ。
大学は油絵専攻だったのですけど、別に高校の時に美術部に入っていたわけでもなく、好きに絵や漫画を描いて遊んでいました。
その流れで、手描きの温かい絵を描きたいな、と思うようになり、大学時代は油絵の課題をこなしつつ、横で画用紙を広げて水彩で女の子や動物の絵を描いていました。
そうして好きなように描いていたら、今の絵柄になっていた、という感じです。
―なるほど。動物を描かれるようになったことにも、何かルーツのようなものがあったのでしょうか。
小林さゆり:すごく幼い時から、動物ばかり描いていたんですよ。
動物と女の子しか描いていない、という。
本当に小さい時に描いたらくがきも「ウサギばかりだった」と母が言っていましたし、ぬいぐるみにも囲まれていましたから…ただただ、好きだったのでしょうね。
描きたいものを描き続けることが大切
―作品を描くにあたって大切にしていること、意識していることがあれば教えてください。
小林さゆり:自分自身も描いていてワーッと入り込めて、誰か1人でも、見てくれた人の心が踊ったり、ぐっと来てくれたりしたらいいな、という気持ちで描いています。
ぐっときたでも、キュンでも、とにかく誰かの心に響く絵になるといいな、と。
とはいえ、それをどう意識しているかと問われれば、描く上では結構無意識かもしれません。
ただ、例えば「今日は目がすごく綺麗な猫ちゃんの絵を描くから、吸い込まれるような目を描こう」とか。「今日はもっとファンシーに、可愛く可愛く、とにかく可愛く、だから、ゆめかわ色で揃えていこう」とか。絵ごとに意識点が違う、という部分はありますね。

―影響を受けたクリエイターさんはいらっしゃいますか?
小林さゆり:すごく好きな作家さんはいっぱいいますが、中でも特に、となると酒井駒子さんかなと思います。
私が一番好きなのは『ビロードのうさぎ』という絵本なのですけど、酒井さんの絵を見る時は、いつもぐっとくるんです。もう、たまらないものがありますね。
20代の頃、小さなコテージのような美術館で『ビロードのうさぎ』の絵本の原画展示を見に行った時は、涙が出そうでした。
あとは、海外で『オズの魔法使い』の大きな絵本を出されているリスベート・ツヴェルガーさんですね。
『オズの魔法使い』の表紙になっている絵が、雑草の一種であるポピーの花の中を、オズの仲間たちが歩いていく、というシーンがあるのですが、その絵を見た瞬間、忘れられなくなりました。
とにかく美しかったんです。毒のあるというケシの花の中を歩くシーンが。
赤の中でも朱色の美しさがインパクトに残り、私自身もよくポピーを描いています。
ツヴェルガーさんは学生の頃、絵本の原画展を色々見に行っていた時にたまたま見つけたんです。
高校、大学~子どもが生まれるまではよくそういった絵本展示も見に行っていましたね。
―画力や作品のクオリティを上げるために意識していること、おすすめの方法などはありますか?
小林さゆり:とにかく描く、ということですね。
技術とかばかりに引きずられるくらいなら、とにかく描いて描いて描きまくれば良いんじゃないかな、と思っています。
デッサン的な意味で言えば、私も大学に入る前の1年だけ、美大の予備校みたいなところでデッサンを習ったのですけど…その間だけは、近所の川に行って散歩している人をずっとクロッキーし続けたりもしていましたね。
あとは好きな絵が描けるようになれば、好きな絵をとにかく描いて描いて描き続ける、という以外はないかなと思います。
描けない時もあると思いますから、その時は無理に描かなくてもいいとは思いますけれど、描きたいと思えばずっと描き続けるのが大事なのかな、と。
私自身も、デッサンやクロッキー以外は、変わらずウサギや女の子、動物など、夢々しい好きなものを色々何でも描き続けていました。
何だか、むやみやたらに技術ばかりに走ってしまうと、心が置いていかれるような気がするんですよね。
その時に描きたいものを描き続ける、って大切だと思います。

夢があるのに、諦めて挑戦しないほうが、絶対に後悔する
―現在は、どのようにお仕事を取っていらっしゃるのでしょうか。また、忙しくなった際に受けるお仕事の優先順位などもあれば、教えてください。
小林さゆり:そこまでひどく被ることは、実はそんなにありません。
仕事の取り方に関してはもう、私自身も今すごく悩んでいるところでして…上京せずに子育てしながらどうやったら仕事をいただけるのか逆に知りたいぐらいの状態です。
現在いただいているお仕事に関しては、SNSでイラストを見てお声かけいただくか、10年ぐらい前にお仕事をくれた方が今改めてもう1回お仕事をくださったり、10年ぐらい前に私の仕事を見て、今ご依頼をくださったり、というご縁で描かせていただく事も少なくありません。
「(10年前の当時ではなく)今なんだ!?」という感じのことが、ここ数年は多いですね。
過去には一度、子供を出産する前に思い切って、東京に営業へ出てみたこともあるんですよ。
出版社さんに行ったり、ちょっとご縁があるところでお話しさせてもらったり。
中には良い繋がりを持てて、「子育てが一息ついたら、絵本とか考えよう」と色々言ってくださった担当さんなどもいらっしゃったのですけど…
出産して、コロナ禍が起きた後ぐらいに、良い関係を持てていた方が、皆さん退職していらっしゃったんです。
頑張って出産前に作った縁が、沢山なくなってしまって…
なので、今はそれでも繋がり続けられてありがたいご縁や、SNSなどから新たに繋げていただいたご縁で仕事が回っている、という感じですね。
まだ仕事がそんなに増えてきて重なる、ということもほぼありません。
ただ、子どもの小学校の夏休みなどの長期休暇中などは制作がほんとに少ししか出来なくなるのでそこだけは申し訳ないのですが、ご了承いただいた上で締め切り調整していただいています。
―クリエイターとして活動する上で、不安などはありましたか?
小林さゆり:収入面での不安はありましたね。
でも子供ができてからは、赤ちゃんを抱っこしながらでも絵を描くことで、アルバイト的なプラス収入になることもありましたから、結果的には良かったなと思います。
そうですね…むしろこれまでより、今からが不安かな、という感じもありますかね。
子どもも大きくなってきたのでお仕事の時間はあります。
でも、関西でしっかり継続してイラストのお仕事を取っていけるのかは永遠の課題かもしれないです。営業下手なので・・・(苦笑)
それ以外に関しては、自分の絵でやりたいと思ったのにやらないほうが後悔すると思っていますから、不安になることはありませんでした。
夢があるのに諦めて挑戦しなかった、となるほうが絶対に後悔しますから。
例え駄目だったとしても、同じ後悔をするなら、やるだけやって後悔するほうがいいな、と。
やらない方が不安というか、多分モヤモヤしたと思うんですよね。
そう考えながらこの道に走りましたから、絵を描く上での不安はあまりなかったかなと思います。

―ありがとうございます。では、絵を仕事にしていて良かったことを教えてください。
小林さゆり:まずは、たくさん出会いがあったことですね。
それから私は元々、自分に自信がないタイプだったのですが、絵だけは自信をくれました。
たくさんの人から、私の絵ですごく元気になったよ、と言っていただけましたし、若い人からは、私の絵を好きになったことで「自分でも絵を描くようになって、専門学校も行きました」と伝えてくださった方もいて。
皆さんが嬉しそうに言ってくれる感想が、また自分にも力をくれて、お話しを聞く度にすごく良かったなと思います。
―逆に、大変なことはありますか?
小林さゆり:今は、企業さんからの絵も描きますし、委託の出展もしますし、個人様のご依頼の絵も描いている、という状態なので…
絵を描きながら、印刷所に出して、梱包して、発送して、それから何日までに何だっけ、みたいな…やることの種類の多さで混乱する、ということですね(笑)
後は企業様との契約交渉ですね。営業的な仕事はむずかしいです。
企業様からすべていくらで何日までにと希望など出していただけるお仕事はそうでもないのですが、こちらにまず託されるパターンは本当に難しいです。

―それでは最後に、今後の目標や展望を教えてください。
小林さゆり:また絵本や塗り絵本など、自分の名前で本を出せるチャンスをいただけたら良いな、と思います。
そのチャンスをもらうために頑張って描いていこうかな、という感じですね。
すごく大きな目標としては、おばあちゃんになるまで描いて、「あの人、まだ描きたいものがあるって言ってたのに死んじゃったの?」と、後悔を残して死ぬ、くらいまで描き続けたいです。

