
「絵を描くことしか人の役に立つことがない 」無能さん

絵を描く以外に向いていることがないと思う
―今、デザイン系の専門学校に通われているそうですね。
無能:高校を卒業して大学に一回入学したんですけど、途中でやめたんです。
しばらくなにしようかなと考えて、せっかくだし昔からやりたかったことをやろうと思ってデザイン関係の専門学校に行っています。
―大学は絵を描くこととは関係ない学部でしたか?
無能:全然関係ない学部でした。もしかしたら自分の好きに繋げられるかなと思ったんですが、違いましたね。多分向いているタイプではなかったです。
―一旦は絵を描くことと関係ない学部へ進学し他の世界を知った上で、それでも絵を描きたいと思われたんですか?
無能:そうですね。昔から絵を描くことは好きでした。ただ、昔は仕事にしようとは考えていなくて。漠然と絵を描くことが好きだなくらいでした。
―その時は絵を仕事にするという目標はなかったんですか?
無能:できるとは思っていなかったですね。
中学生くらいの頃にアニメーターはすごくお給料が少ないし過酷だという話で盛り上がって。それに紐づいて、アーティストって本当に一部の天才だけが活躍できるんだろうなと思っていました。
―実際に厳しい世界という側面を知って、他の道を選択したのにも関わらず、それでも専門学校に入学して絵を描いてみようと思われたきっかけはありましたか?
無能:もうそれしかないんですよ。それしか私が生きていける道がないんです。
絵を描く以外に向いていることがないと思います。
―色々チャレンジされた中でそう思われたんですか?
無能:そうですね。大学を辞めて、何もしないわけにはいかないですよね。なのでぼちぼち働いていましたが、何か違うし、本当に向いてないんですよね。
―絵しか描けないと?
無能:はい。それくらいしか人の役に立てないんです。多分。
―現在はどのような活動をされていらっしゃいますか?
無能:SNSで活動しているのと、美術系の大学を出たわけではないので、独学で基礎から見つめ直そうの会を一人でやっています。
―先ほど絵を描くことしか人の役に立つことがないかもというお話がありましたが、
活動されている中で人のためになったと感じられることはありますか?
無能:人のためになったかは分かりませんが、絵を描いた時に喜んでもらえた経験が描き続けたいという根本になっています。
―実際そういったエピソードはありますか?
無能:似顔絵を描いた時にすごくテンション高く喜んでもらえたことですね。
その場で簡単に描いた猫のイラストを似ていると言ってもらえたり。
―絵を通して共感してもらえたり、喜んでもらえたりすることが絵を描いていて嬉しいことですか?
無能:そうですね。普段は結構ネガティブなイラストを描いていて。ポジティブじゃない共感も嬉しいですね。
―無能さん自身はネガティブな共感が嬉しいんですか?
無能:嬉しいですね。自分がネガティブなので、その方が安心します。
―何か共感してもらえてうれしいネガティブなことってありますか?
無能:コンプレックスとか。モヤモヤした気持ちとかです。
―共感してもらって、ちょっと痛みが共有されるイメージですか?
無能:そうですね。痛みに寄り添うまではいかないですけど。イラストを見てくれた人の中に同じ思いを持っている人がいると思うと嬉しいですね。
―絵を描く上で、ご苦労されていることはありますか?
無能:画力とかそういう問題です。
やっぱり基礎から見つめ直そうの会を一人でやっているんで、日々心が折れています。
自分はネガティブの塊なので、毎晩涙をためながら絵を描いていますね。
―自分の思っているように絵を描けないということですか?
無能:それもありますし、この前はコンペがあったんですが全然ダメで。
落ち込んで時間も気にせず、ずっと絵を描いていました。
―悔しさがあった時は絵を描くことに向かうんですか?
無能:とりあえず描いて忘れようみたいな。
―普通、絵を描くことから逃げたくなりません?
無能:いや、逃げる事もありますよ。忘れて寝る事もあります。
―それでも戻ってくるんですよね?
無能:そうなんですよね。結局なんやかんやで絵を描くことに戻ってきます。
「ただただ綺麗にそうありたい姿を描く」
―作品をつくる上で大事にしていることはありますか?
無能:負の感情を詰めることですね。
ネガティブの塊なので、些細なことでもずっと内に負の感情があります。
―負の感情とはどんなものですか?
無能:一番大きいのは美醜への執着ですかね。
人に言われて気が付いたんですが、美しさに対する執着がすごくて。
そこは他の人より大きい感情だと思います。
人のイラストが多いんですが、細部の細かなフェチズム的な部分を出していきたいと思っています。
―美醜へのこだわりとは細部まで綺麗なものを描きたいということですか?
無能:ぱっと見たときに綺麗な絵ではなくて、綺麗に描きたいんです。風景の綺麗さとかではなく、細部までこだわった綺麗さですね。例えば、目の形はこれが正しいとか。
―自分の中の完璧な容姿を描きたいと。
無能:ルッキズムではなく、人からどう見られるとかは関係なくて。ただただ綺麗にそうありたい姿を描きたいんです。絵の中くらい綺麗でいたいです。
―綺麗に絵を描きたいとなるとなかなか作品を作るのに時間がかかりますか?
無能:そうですね。だから描いてもすぐ消してしまうことも多いです。
落書きならOKだけど、作品となると没にしてしまうみたいな。
時間もかかるし、メンタルもいります。
―今後の目標や、やりたいことはありますか?
無能:ずっと目標にしているのは、自分の絵を自分が描いたからという理由で買ってもらうことです。企業さんが求める絵を描くのではなくて、アーティストとして自身が描いた絵を買ってもらいたいですね。あとは個展もやっていきたいです。展示の機会は増やしていきたいですね。
―ありがとうございます。
最後に無能さんの作品を好きになってくれるファンの方に一言お願いいたします。
無能:絵を好きになってくれるということは、多分私とお友達になれるポテンシャルがあると思うので、仲良くしてくださいっていう気持ちです。