―現在の活動について教えてください。
アオノ:関西と東京をメインに、グループ展やイベントに参加させてもらったり、絵画講師やワークショップの講師をしながら活動しています。
―クリエイターとして活動されるようになったきっかけを教えていただいてよろしいですか。
アオノ:幼少期から模写をするのがすごく好きで芸術大学に行ったのですが、卒業して以降は一度一般企業に就職して一般会社員として日々一生懸命働いていました。
でも、どこか虚しさが抜けなくて「何をしてるんやろ自分は」「このままなんか何も世に残さずに死んでいくのかな」って思った時に「やっぱり美大出たからには一回とことん挑戦してから諦めよう」と思ったことが、ちゃんと絵を描くきっかけです。
学生時代は不良学生だったので、課題以外の絵を描いたりはしていなかったのですが、仕事を辞めてちゃんと絵を描くと決めて以降、自発的に何かをしてみたり、イベントに参加したりするようになりました。
―芸大に入られた時は、グラフィックデザインや美術系の企業などに就職したい気持ちはありましたか。
アオノ:最初からデザイン系に行こうとは思っていなかったです。デザイン系となると、デザインを1から学べるデザイン学科のほうが就職に強いので、ファインアート系メインの自分とは方向性が違うなと感じていました。
それに当時、私が興味を持っていたのは舞台美術系で、劇団四季の小道具の制作や、テレビ局の美術さんとかに興味があったんですが、コロナ禍と被ってしまってどこも募集していなくて・・・。
なので一旦、一般企業に就職することになりました。
―色んな学部がある中で、なぜ日本画を専攻されたんですか。
アオノ:イラストとか漫画が好きだったので、そちらの制作を学ぼうかと思っていたのですが、当時通っていた美術予備校の先生に「漫画もイラストも、学校に入るだけじゃほんまにいいものは描けない」と言われて、「それはそうかもしれへん」って気づかせてもらったのがきっかけでした。
元々仏教美術とかも好きで、色々なスキルや知識を学ぶには日本画とかがいいのかなと閃いたので1回極めてみようと思い、日本画科に進学したって感じですね。
―大学で日本画を勉強されていたとはいえ、フリーランスになられる時に他の制作手段を選べた中で、なぜ日本画でフリーランスとしてやっていこうと思われたんですか?
アオノ:日本画の良いところって、『不完全さ』だったり『思い通りにならない難しさ』だと思うんです。
私は日本画を『朽ちていく美術』だと思っているので、そこに美しさを感じているんですよね。
自分の描こうとしてるコンセプトと日本画があってる感じがして、日本画でフリーランスになることを決めました。
油絵とかアクリルは、形を面で捉えたりするもので線描は出来ないですし、デジタルイラストレーションはすごい繊細な絵も描けたり、本当に綺麗な色も出すことはできますけど、データの世界になるので方向性の違いを感じてました。
私はデータで何かを残したいのではなくて、作品、物体として何かを残したいと思ってるので、私の方向性と一番合ってるのは日本画だと思ってます。
―アオノさんが思われる日本画の良さってどこだと思われますか。
アオノ:一言で言うなら『完全にコントロールできない面白さ』だと思っています。
油絵とかの場合だと、いつの時代の作品でもすごくリアルに描かれているんですが、それは絵の具が完全に自分のコントロール下にあるからこそ出来る作品なんですよね。
でも日本画は気温や湿度、描き手の技量や道具などによって、作品の仕上がりがものすごく左右されるので、思った通りの日本画が描ける人って、何十年も描いている人以外はいないと思っています。
でも、そこがまた面白いところで、悩みながらも偶然出来た作品に対して、この後どういう手を打つのか考えてみたり、どう方向転換をさせるのか考えたりするのがすごい面白いなと思っています。
あと、日本画は使う素材がすごく面白いんですよ。
絵の具以外にも砂を使って描いたり、墨だったり、金箔だったり、異素材を組み合わせながら作品を作るので、選んだ組み合わせで化学変化が起きていく感じがすごい面白いなと毎回感じてます。
―普段の制作はどのように進められているんですか。
アオノ:制作の進め方としては、デジタルで下絵を描いてから線描まではしっかり作業をして、そのあとは使う色の系統などざっくり決めた上で描き始めています。
私が日本画を描き始めてから年が経ってないっていうのもありますし、絵の具もすごい種類が多いのと、毎回決まったものを使ってるわけではないので、私自身素材の組み合わせによって何色が出るのか、どういったものが完成するのか見えないときもあります。
いろいろな画材を使っていく中で自分の画風や、自分の色を出すための素材などが見えてくると思うんですが、今も模索中です。
日本画での作品制作にこだわりたいので、長い工程をいかに短縮できるかや、各作業にどれぐらいの時間をかけるのかなど、計算しつつやるようにしています。感覚で描くというよりかは、締め切りから逆算して、すごく細かく細かくスケジュールを切って描くタイプです。
―創作する時のアイディアやインスピレーションはどんどん出てくるタイプですか。
アオノ:アイディアは出てはくるんですけどいつも『需要』の部分をついつい考えてしまうので、売れるか売れないかを考えた上で、売れそうなものを描くようにしています。絵でお金を稼いでいくことが難しいからこそ、気になってしまう部分はたくさんありますね。
描きたい絵はめちゃくちゃいっぱいあるんですけど、世間がそれを受け入れてくれるかどうかみたいなところはついつい気にしてしまいます。
―改めて絵を描き始められてよかったことや、活動されている中で良かったことを教えてもらっていいですか。
アオノ:死にたいって思うことがなくなりました(笑)
会社員時代、元々の仕事内容が自分ではなかなか納得がいかないもので、お客様に感謝されるわけでもなく、むしろお客様の迷惑になってるのではないかと思ってしまう業務内容だったので、日々仕事を頑張った実感がなかったんです。仕事なのに、今日もまた人に迷惑をかけてお金をもらってる感覚になってしまい、虚しくなって『そんなお金で生きてる私って何。』みたいな感覚に毎日なってました。
でも今は誰かにいい影響作品を通じて与えることができたり、有益なことができて、その対価としてお金をもらえている実感があるおかげで、お金をもらうことに対しての罪悪感がなくなりました。
あとは会社を辞めてからの方が、人と出会う回数が何十倍にも増えましたね。
横の繋がりが出来て、同じ悩みを共有しあったり、制作に対する想いなどを語ることができるようになったのはすごいいいことだなと感じています。
―今、創作活動されてらっしゃる中でご苦労されている点はありますか。
アオノ:創作活動を継続していくために、絵だけでお金を賄い切れてないところが一番の苦労です。バイトをしながら活動をしているので、両立の仕方や、時間の作り方、体調の管理とかが、一番難しいというか、今もすごい大変だなって思いながらやってます。
あとビジネスマナーがすごく自分にとっては難しくて(笑)自分が社会人としてのマナーがちゃんとできてるのかあまり自信がないので、気を付けてはいるんですが今も苦労しているところですね。
―様々な面で、大切にされてることや気を付けていること、譲れないことなどあれば教えてください。
アオノ:最近ではあまり他人受けを考えずに、刺さる人にだけ刺さればいいやっていう精神で絵を描くようにしています。今まで人の目を気にして描いてきたんですけど、自分のコンセプトであったり、大切にしてる美的感覚にのっとって描こうとはしてます。依頼の仕事でない限り、アートとかそういう分野は自分本位で描くべきかなとは思うので、最近では自分本位で描くことを心がけてます。
―自分らしさってどこにあると思われていますか。
アオノ:今までちょっとずつ経験してきたいろんな文化体験ですね。
茶道を8年やってたんですけど、その中で得た人に対するおもてなしの心だとか禅の考え方とか、好きで学んできた仏教の考え方は、自分や、人生や、作品を構成する上で、結構大きな比重になっていると思います。
―今後のビジョンがあれば教えていただいていいですか。
アオノ:最終目標は40歳になるまでにめちゃくちゃでかい地獄絵を描くこと。『現代の地獄絵』を描きたいと思ってるんです。
今、日本で生きてる若者の世代ってすごく苦しいと思うんですよ。子供を産みたくてもお金のことが気になってしまったり、ステルス増税を日々感じたり。
日々社会の中で感じる息苦しさとか生きづらさを、今まで学んできた仏教の世界に落とし込んで、地獄絵巻みたいなのを描けたらと思ってます。今の若い人はこう思ってるんだよっていうのを、知名度が出てきたときに、大々的に出してみたいですね。社会に対してのアンチテーゼみたいなのを描きたくて、作品を描いてるところもあるので。
―ありがとうございます。最後にアオノさんの作品が好きな方に向けて、一言お願いします。
アオノ:私の作品を通して、自分の中の世界にいま一度目を向けていただく機会だったり、日本画っていう日本で元々栄えてた絵画ジャンルにちょっとでも興味を持ってもらえたら嬉しいです。