心から表現したいものを創る
―現在の活動内容について教えてください。
渡邉:「可能性の探求」をテーマに、媒体を問わない技法を駆使して固定概念を打ち破り、作品を見てくださった方が新たな世界を発見出来るような作品を目指して、日々制作をしています。
現在、「デジタルカメレオンシリーズ」「マジックトラベルシリーズ」「カレイドスコープシリーズ」三つぐらいのシリーズがあります。
「デジタルカメレオンシリーズ」は、アクリル画を完成させた後、そのアクリル画を画像にして、デジタルなどと組み合わせて別の絵画を作ります。完成した絵がカメレオンのように姿を変えていくような作品です。
「マジックトラベルシリーズ」は、ライトを当てたときだけ隠された世界が姿を現す作品ですね。
「カレイドスコープシリーズ」は、朝目覚めてすぐ見た朝の空からイメージしたものを、写真のコラージュで表現するデジタル作品です。
それらの作品以外にも、違った表現を始めたり、新作を 制作 したりしていますが、それらを公開できる場所を探している状態です。
―絵を仕事にしようと決心したきっかけや理由を教えてください。
渡邉:最初のきっかけは小学校一年生ぐらいのときに、担任の先生に絵を褒められたことです。それまではあんまり自信のない子供で、勉強面も運動面もいまいちピンとこない感じでした。そんな中、その先生に「絵が上手いんじゃないか」「絵の方でやってみたらどうか」と言われました。
そこから漠然と絵の道に進むんだろうなっていう意識はあって、中学校ぐらいのときには美大に受験すると決めていました。
媒体は必ずしも絵とは決めずに、柔軟性を持った形で進めようとしていました。
そうして活動するにあたって、たくさんの人に認識してもらう必要を感じて、そのためには世の中に問いを投げかけられるような存在でありたいという意識が出てきました。それが絵を仕事にしようと考えたきっかけのような気がします。
―今3つの作品のシリーズをお持ちということでしたが、その自分の作品の方向性はどうやって決めましたか。
渡邉:「心から表現したいものは何か」をずっと考え続けていまして、それをどう表現するのが適切なのか考え続けた結果、自然と今の形になりました。何かの作品を参考にする と いうことがなく、自分が表現したいものを形にするにはどうしたら一番伝わりやすいのかとか、どういう媒体を選んだら一番しっくりきてもらうことができるかってことをいつも考え続けていています。
―ライトを使った「マジックトラベルシリーズ」など、普通の絵とは全く違うアイデアで制作されていますが、それぞれのシリーズをいつから制作し始めたとか、エピソードがあれば教えてください。
渡邉:「マジックトラベルシリーズ」は2019年ごろです。シリーズ最初の作品といえるのが初めての100号サイズの作品です。見えない事象、例えば時間を進めたり戻したりする変化を、ライトの当て方によって絵も変化させて表現することを考え出しました。その作品で大阪府知事賞をいただきました。
「カレイドスコープ」は2021年からで、一番新しいシリーズですね。数ヶ月の期間だけやって一度止まっていたシリーズなんですけど、また最近制作を再開し始めています。
「デジタルカメレオンシリーズ」は、始めた時期は覚えていませんが、一番長く続けているシリーズです。
―絵を描くにあたって大切にしていることや意識していることを教えてください。
渡邉:「目の前の事柄や事象を多角的に見るような作品であること」、「見えないけれどもそこに存在するようなものを作ること」、「偶然発生するような要素の衝突から生まれる化学反応を大事にすること」の三つのポイントを意識して制作しています。
―渡邉さんの作風を出すにあたり、使うモチーフや色使いなど視覚情報として見てとれるところで
工夫していることはありますか。
渡邉:色に対しては、赤色なら情熱や生命力、緑なら 理性 など、何か自分の中で言語化しています。制作する作品の意図を考えるときに、その作品で伝えたい内容にあった色をわざと選んで構成に入れています。
―影響を受けたクリエイターはいますか。また、どんな点で参考にされていますか。
渡邉:数え切れない方から多分無意識に影響を受けているとは思いますが、ぱっと思いついたのは、寺山修司さんと岡本太郎さん。
生活の中で身近な表現をしていく方法を考えてたときに、劇作家の寺山修司さんが作られた『市街劇』というものに出会って、すごく衝撃を受けました。
岡本太郎さんは描き方よりも「内側に向かっていった人が外側に強く開くことがある」など、そういう何気ない言葉に精神面で影響を受けています。
あと影響を受けているのはミュージシャンが多いですね。平沢進さんとか知久寿焼さんとか、その方々の言葉遣いや言葉の組み替え方とか何か音楽的なものから影響を受けたイメージを絵にすることもあります。
―画力を上げるために実際にやったことやおすすめの勉強方法はありますか。
渡邉:デッサンと水彩の基礎を固めることはもう中学生か高校生ぐらいのときには意識していました。美大受験時に映画学科を受験して、2年間映画を学んで、その後2年をデザイン学科で学んだんですけど、映画学科に入学する際もデッサンで合格しました。絵を描くことに関しては美大に入学できるぐらいの基礎は必ずつけておこうって意識はすごくありました。あとは画塾や美術研究所のようなところに通って基礎力をつけるようにしていました。
あと、若干作品を仕上げるスピードが遅いんじゃないかという自分での認識があったので、下手でもいいから本番の絵をとにかく描いています。下書きとか何かそういう練習をすごくするというよりも、本番の枚数を重ねるっていうことを意識しています。
―作品を作るために必要なスキルとか知識をつけるための勉強方法とかおすすめの本や映像作品はありますか。
渡邉:勉強方法はColosoというサイトなどで、絵の書き方の講座みたいなのをビデオで学んだりしたことはあります。
人物の描き方を他の方がどういうふうに制作されているのかすごく興味があって、海外のイラストレーターさんが行っているクラスを受講したことあるんですけれども、今までいろんな本とかを見てやってきた内容とはちょっと違う感じでオリジナリティのあるものだったのでおすすめです。
不安も視点を変えれば力となる
―現在、どのような形で作品発表やお仕事をされていますか。
渡邉:展覧会をするときもありますが、大体は芸術祭みたいなところに展示しようと頑張っています。なるべく人が多く見ていただけるような機会を作れるよう模索していて、芸術祭のようなイベントの受賞コンペとかで受賞したときにその縁で展示させていただくなどして、活動を重ねている状態です。
―現在、どうやってお仕事をとられていますか?また仕事が増えてきた際にどのような基準でお仕事を選ばれていますか?
渡邉:自分の作品やグッズを作って自分のショップで販売したり、展覧会などで販売したりすることもありますけど、ネットを見て絵を知ったっていう方から、Tシャツなどのデザインを作ってほしいとか、絵のリクエストをいただいたり、知人の方からお仕事をいただいたりしてします。
お仕事が増えてきた場合には、自分らしい表現ができるようなお仕事を優先するかもしれないですけれども、基本的にはなるべく何でもトライしようと考えています。
―アートを仕事にするとき、不安がどこかのタイミングであったと思いますが、それがどのタイミングであったのか、あとその不安とどのように向き合ってこられたか教えてください。
渡邉:私は以前、結構大きな病気をした時期がありました。やりたいことがいっぱいある中で、死んでしまうことがあるかもしれないって考えたときに、ちゃんと相手にされるようにもっと本気で活動したいという気持ちから不安になることはありました。
それに向き合うために、物事に対して多角的な視点を持つことをすごく意識するようになりました。これは自分の作品制作の基本でもあります。困難な状況に遭遇した時、「この困難は本当に困難なのだろうか?」って逆の視点を持つことで、力が湧いてきたり、違う発想が生まれてきたりしたので、その考え方で今まで乗り越えてきました。
金銭的な不安もありますが、絵を描くっていうことが割と生活のリズムの中に入っているので、もし駄目になっても何か他の仕事をしていけばいいって思っているので、そこまで大きな不安ではなかったです。
絵を描くことを職業にすることに対してはやっぱりある程度のプレッシャーはありますが、なんかそのプレッシャーを利用して行動に移してきました。
―絵を仕事にしていてよかったことと大変なことを教えてください。
渡邉:作品制作を通して様々な視点を変える作業を続けている中で、自信のなさや人間不信になっていた時期などの自分の中のしがらみを乗り越えることができて、自由を実感出来るところや、自分の人生をもっと高めたい気持ちになり、それに対して向き合って頑張っていけることが良かった点かなとは思います。
活動自体が見知らぬ土地や人に出会わせてくれたり、作品が流通していくことで色々なところから声がかかったり、作品を通して人と出会えることが私の中ではとてもいい経験だと思っています。
自分がやりにくいなと思っていたことを乗り越えていくこと自体、楽しみの一つに変わっていくので、大変なことっていうのはあるんですけど、全体的には楽しいことの方が多いかなと思います。
―今後の目標や展望を教えてください。
渡邉:芸術祭とか展覧会とかのイベントでより多くの方に見てもらえる機会をたくさん作りたいというのと、生活に身近なところで表現ができないかを考え続けているので、グッズもたくさん作っていろんな展開をしていきたいです。
最近は地方を結びつけるような活動っていうものを意識して行うこともしていて、8月の末から9月ぐらいまで静岡の方に滞在する機会もあります。人との出会いを大切にし、何かいろんな場所や人の可能性を探求していけるような活動ができたらいいなと思っています。
―最後にファンの方に向けて、何か一言あれば教えてください。
渡邉:私の作品を通して別の視点を得る楽しさや、新しい捉え方をする楽しさを通じて、自分の中の変化を楽しんでいただけたらなと思います。