「自分の作品が、自分をいろんなところに連れて行ってくれる」うみいろ

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自分一人で描くだけでは味わえない面白さ

―現在の活動内容について教えてください。

うみいろ:北欧をテーマにした色使いや、優しいフォルムを意識したイラストを描いていて、SNSでは『くろねこっく』というオリジナルキャラクターを発表しています。

他にも、企業のキャラクターデザインや、パッケージデザインに関わらせていただくことがあります。

―では、イラストレーターとしてお仕事をしようと決心したきっかけを教えてください。

うみいろ:絵を描くことは、幼稚園ぐらいの頃から続けていました。

最初はただ本当に「好き」という気持ちで描き続けていたのですけど、コロナ禍ぐらいのタイミングで、SNSでの投稿や、イラスト販売の登録サイトに「こういうイラストを描いてください」というお声がかかるようになって。

「仕事」と意識して描くようになった時、それまでとはまた別の楽しさを感じたんです。

自分のイラストに対して相手の反応が見られるというのも嬉しいですし、自分の描いた絵がどう展開されていくのか、その流れが見える。そういう、自分一人でただ描くだけでは味わえない面白さを発見して。

1つの「商品」として、第三者にイラストを届けられるというのが嬉しかった。その思いが、一番強いかもしれないですね。

本当に、一目惚れがきっかけで

―ご自身の作品の方向性は、どのように決められましたか?

うみいろ:働きながら、夜間のデザイン学校に行っていたことがありまして。

色んなデザインを学ぶ中、そこで初めて『北欧デザイン』に触れて、一目惚れしたんです。鮮やかで、独特の線を描くテキスタイルや家具など「こんな可愛いものがあるんだ!」って感動しました。その後、北欧ブランドを色々調べてみたり、その時に日本でやってる北欧の展覧会とかにも行ったんです。

そこで方向性として一番気に入ったのが、色使いでした。
やっぱりちょっと、日本とは色の使い方が違う気がしたんです。

日本の可愛いイラストは、淡く優しいカラーテイストが多いイメージがあります。
でも北欧デザインは、ビビットな色も使いつつ、まとまりがある。色の組み合わせが本当に素敵。これをどうしたら再現できるのか、自分の色に当てはめられるのか、本当に一目惚れがきっかけで考えるようになったんです。

そして一目惚れの勢いで、実際にフィンランドにも行きました!
初めての海外1人旅。勢いとはいえかなり不安は多かったので、事前にフィンランドの文化を調べまくり、「言語交換アプリ」でフィンランド人の友達を作って、たくさん質問して、あらゆる情報を得てから旅立ちました(笑)

現地ではヘルシンキの美術館をたくさん巡ってみたり、フィンランド人の友人と交流をしたり、友人の家の庭でブルーベリー狩りまで体験しました(笑)
「アート作品」や「人」に実際に触れて、すごく素敵な文化を持つ国だと心からそう思いました。本当に行ってよかった、フィンランドが大好きです。

そして作品に関しても、「やっぱりこの北欧テイストが本当に好き」と確信を持ちました。
そこから『くろねこっく』を生み出して、色にこだわったり、背景に北欧の要素を入れて……という方向性で進めていくことを決めたんです。

―作品を描くにあたって大切にしていること、意識していることを教えてください。

うみいろ:まず一つ目は、わかりやすさ。

一目見て、誰もがわかるような、「わかりやすさ」を前面に出した作品を心がけています。そこにプラス、「このイラスト好き!かわいい!」という少し気持ちが楽しくなる様な、そんな感情になってもらえるととても嬉しいです。

二つ目が、色ですね。色って、一目見た時にすべてが伝わるというか。相手に作品の世界観を直接的に伝えられるという気がします。北欧デザインに一目惚れした理由も、一番は色だったので、そういった印象に残る世界観を作りたいという想いがありますね。

あと三つ目が、顔。

キャラクターを描く時、顔はシンプルに作り、あまり複雑な顔の造形は作らないんです。顔をシンプルにすると、見た人がいろいろと想像しやすいかなっていうのがあって。
『くろねこっく』のイラストを複数の人に見せた時、同じ1枚のイラストを見せているのに感想が人それぞれで。「ちょっとしょんぼりしている」ように見えたり、「つまみぐいしようとしてる?」とか「お菓子作るの失敗しちゃった・・」って感じ?など、全然違った感想をもらいました(笑)
シンプルだからこそ、見る側の想像力が膨らむっていうのは、すごく面白いなと思っています。

―影響を受けたクリエイターさんがいれば、教えてください。

うみいろ:大きく影響を受けたなと思うのは、リサ・ラーソンさんだと思います。スウェーデンの陶芸家さんですね。
たまたま私が北欧に興味を持ったタイミングで、リサ・ラーソンさんの展覧会があって。それを観に行った時に、また一目惚れしてしまったんですよね。

独特なフォルムの作品を作られる方で、写実的に作っているわけではないんですけど、作るモデルに対しての『可愛い部分の特徴』をすごく掴んであって、そのフォルムの作り方にすごく感動したんです。

展覧会に行って、飾られている生き物たちに一匹一匹出会う度に「ふふっ」って思わず笑ってしまいました。本当に生きているような、命が宿っているような可愛さを感じたんです。犬か猫かたぬきかわからないような生物に、「君は何者なの?」って思わず尋ねたくなるような、とても温かい雰囲気が作品にありました。

展覧会で私と同じように一人で回っておられたマダムがいて、何度も「ふふっ」って笑っている私を見て、「みんなすごく可愛い表情をしてるわね」と話しかけてくださったんです。
後でふと、この方はどのように作品を観ているのかなというのが気になって。ちらっと見てみたら、マダムもすごくニコニコして、クスクス笑いながら作品を観て回っていらっしゃって。

その時、作品を見てくださる方に、そういった『感情』を与えられるのって、本当にすごいことだなと思ったんです。作品自体も素晴らしいんですけど、それを観て微笑むマダムも含めて、展示会自体がすごく素敵な空間だなっていう印象が強く残りました。

なので、自分自身も、そういう素敵な空間を作れるような、作家の心情が作品にあふれるような、温かみのあるものが作れるようになりたいと、強く思っています。

日本じゃない場所で、どう広がっていくのか

―作品のクオリティを上げるために意識していること、おすすめの方法などはありますか?

うみいろ:デザイン学校に行ったこともそうですし、私自身、美大の出身ではないので、今のタイミングでデッサン教室にも通い始めたんです。

好きでイラストを描き続けてきましたけど、基礎が身についているわけではないですし、写実的に上手に描けるかと言われると、また別の話になると思うんですよ。

今までずっと絵を描いてきた分、好きな雰囲気で黒猫ちゃんは描けるけど、めちゃくちゃ写実的に壺を描けと言われたら、多分ボロボロ。物の見え方をまだ理解できていない自覚があるので、だからこそデッサン教室に行くことにしました。

それがまた、面白くて。一つの物に対して、意識する部分によって表現の仕方が変わる。そういう、直感で自分が面白そうと思ったことに躊躇なく突っ込んでいくことは、大事なのかなと思っています。

―ここにきて基礎に立ち返る。すごいですね。

うみいろ:デッサンはやっぱり面白いです。基礎の力をつけて、シンプルなのに説得力がある、という作品を作れるようになりたい。

あとは、自分が「いいな」と思った展覧会とかで、いろんな作品に触れ合うのも大事かなと思います。できれば自分の方向性、「自分はこういう作品がやりたい」という基盤を持った上で見るほうが、『今の自分にない部分』を意識して見ることができると思います。ただ鑑賞するだけじゃなく、プラスアルファを得られて、すごく勉強になります。

―現在は、どのようにお仕事を取っているんでしょうか?

うみいろ:基本はSNS経由ですね。あとは人づてで「こういうのやってみない?」とご連絡いただくことがあります。

―お仕事が増えすぎた時、受ける仕事の優先順位はどのように決められているのでしょうか。

うみいろ:よほど怪しくない限り、基本的にいただくお仕事はすべて受けるようにしています。小さなお仕事でも、大きなお仕事でも、そうした『出会い』が次の『出会い』に繋がる、ということが多い気がするんです。なので、納期を自分の中でしっかりスケジュール管理しながら、基本的にお仕事はすべて受けていますね。

―クリエイターとして活動する上で、不安などはありましたか。

うみいろ:そうですね。SNS経由でメールをいただく時も、「この人はどういう人なのかな」という不安を抱くことは、今でもあります。

―顔もわからない相手ですしね。

うみいろ:はい。なので、いただいたURLをしっかり調べるとか、最低限、自分を守れるようにという意識は持っています。依頼で詐欺に遭いましたなんて話も、耳にしますし。

もちろん『出会い』もありますが、自分を守れるのは自分だけですし、不安に思う部分もあるんですけど、そこは知識で補う!という感じですね。

―では、絵をお仕事にしていて良かったと思うことを教えてください。

うみいろ:自分の作品を誰かに喜んでもらえる。そういう達成感や、喜びを得られることですね。

例えば、一つのキャラクターを作った時に「お客さんがすごい可愛いって言ってたよ!」なんて又聞きすることもあるんですけど。そういう、『人に届いている』ことを実感できる仕事だと思っているので、やりがいに繋がっています。

あとは、「自分の作品が、自分をいろんなところに連れて行ってくれる」という感覚もあるんです。『くろねこっく』を描いてSNSに上げなかったら、今回のインタビューもなかったでしょうし。そういう面白さを感じながら、楽しくやらせていただいています。

―ありがとうございます。逆に、大変だと感じたことはありますか?

うみいろ:納期ですかね。
私自身、他にもお仕事をしている身なので、「この仕事を受けたいけど、どこにスケジュール埋め込んだらいいかな」みたいには、よく悩みます。上手くいくように調整しますけど、その辺りでバタバタすることがありますね。

あとは、コミュニケーションでしょうか。対人関係でうまくいかない、というわけではなくて、イラストに対しての言語化というか…それが少し難しく感じることはあります。

例えば、完成したイラストを「もう少し右を向かせてください」って、難しいじゃないですか。でも、依頼をくださる方はイラストを描く方ではないので、それが難しいということをご存知ない場合もあります。今のは例え話ですが。

ですから、イラストに詳しくない方に自分がどれだけ言語化して伝えられるか。
そこがまだ私にとっての課題だなと思っています。

―最後に、今後の目標や展望を教えてください。

うみいろ:すごく大きな目標になってしまうのですけど、日本だけじゃなく、海外への展開にもとても興味があります。

日本の方に絵を見ていただいた時、「色使いが日本っぽくないよね」と言われることが多いんです。色が独特だねとか。「日本っぽくない」というのは、北欧デザインを意識しているので、もちろんその通りなんですけど。だからこそ「じゃあ、日本ではないところで展開した時にどう映るのかな」「どう広がっていくのかな」というのは、見てみたいですね。

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