「正確さよりも、気持ち良さを大切にする」tatamipiさん

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環境の影響で、筆圧検知を消してストロークを長くした

―現在の活動内容について教えてください。

tatamipi:基本的にはデジタルでイラストを描いて、SNSに投稿する活動が主になります。
あとは、イラストを印刷物にしたり、グッズを作ってイベントに出展したり、合同展に参加させていただくことなどもあります。

クライアントワークとしては、直近では書籍の挿画を描かせていただきました。
他にも、『歌ってみた』などのMVのイラストを描かせていただくことがあります。

 

―イラストレーターとしてお仕事をしようと決心したきっかけを教えてください。

tatamipi:自分はそれほど、決心をした、というようなタイミングはありませんでした。

絵を描くことは、会社員でもできる趣味やライフワークに近いもの、という感覚です。
趣味として描いた絵をSNSに投稿するだけでも、だいぶ満たされていました。

でも、そういった活動の中でお声がけいただくことがあって…
徐々に、趣味だったものがお仕事としても広がっていくようになった、という感じです。

 

―描き始めてSNSに投稿を始められたこと自体は、何かきっかけがあったのでしょうか?

tatamipi:2013年頃、pixivを知って、何となく「絵を描いていたから投稿した」という感じでした。
その前には、お絵かき掲示板などでも描いていましたね。
他にも、drawrや手描きブログなど、描く系のSNSに身を置いていたので、描いた絵をオンライン上で見てもらうことには馴染んでいた気がします。

 

―ご自身の作品のスタイルや方向性は、どのように決められましたか。

tatamipi:ひとつは、環境の影響があると思います。
デジタルで絵を描き始めた時、パソコンがめちゃくちゃ古くて、お絵かき掲示板や絵を描くソフトの動作が恐ろしく遅かったんですよ。
なので、できるだけ負担がない描き方を模索していました。

まず、ペンの筆圧検知は切る。
それから、ストロークを細かく描くと、Ctrl+Zで戻す回数が多くなりますから…これも、できるだけ簡単に『元に戻す』をやるために、1ストロークを長く描く。
ずっとそれで描いてきたので、今の絵柄に至っている、というのはあるかなと思います。

それと、『こういうのを描きたい』とか、『こういうものを目指そう』みたいな部分はあまり考えないように意識しています。
自分の中で、ルールみたいなものをガチガチに作りすぎてしまうと、どんどん視野や描けるものの幅が狭くなってしまうような気がしています。
例えば『目のハイライトを必ず二つにする』とか、そういう自分ルールみたいなものは、できるだけ決めない。
加えて、リアルタイムで描いている時の『一番気持ちいい線』や、「この辺に物があるといいな」みたいな『バランスの気持ち良さ』などを大切にしています。
できるだけ『今までの描き方』に引っ張られないように、こだわらないように、というのは気をつけています。

自分の中の『フェチ』を、しっかり絵の中に詰める

―作品を描くにあたって大切にしていること、意識していることがあれば教えてください。

tatamipi:正確さよりも気持ち良さを大切にする、という部分は強く意識しています。

少し腕が長くても、頭が小さくても、「絵が良ければいいじゃないか」という気持ちがあるんです。
自由に描ける、というのが絵ならではの楽しさかなと思いますから、パースなどの正確さにこだわりすぎず、絵だからこその『何とも言えない気持ち良い部分』を大事にしたいな、と思っています。
自分の中の『フェチ』を、しっかり絵の中に詰める、という感じです。

 

―なるほど。いつも大体ここに『フェチ』を込めてしまうな、というポイントはあるのでしょうか。

tatamipi:腰ですかね。
腰がちゃんと入ってると気持ちいいなと思います。

あとは顔ですね。
顔はとにかく可愛ければ可愛いほど良いと思います。
私の絵柄の場合は生々しすぎると違和感を感じるので、あまり描き込みすぎないように、シンプルなバランスを維持しながら可愛く描くことを大切にしています。

イラストの流行なども、あるじゃないですか。
最近だと、まつ毛の中のハイライトとかが流行っていたと思うのですけど、そういった流行を丁寧に取り入れていくと情報量がちょっと偏ってしまって…
私の絵としては「変わってしまうな」と思うので、結構『描いて消して』を繰り返してちょうどいい塩梅を探したりします。

―影響を受けたクリエイターさんはいらっしゃいますか?

tatamipi:子供の頃からの影響で言えば、手塚治虫さんだと思います。
特に『火の鳥』と『ワンダースリー』という漫画が好きです。登場する女の子がみんな可愛いです。

実は私は、漫画禁止の家庭で育ったんです。
『ジャンプ』や『ちゃお』などの自分世代の漫画雑誌に触れる機会がなく…しかし、両親が所有していた漫画にだけはアクセスできました。
そのせいで手塚治虫さんの作品を何度も繰り返し読んでいる時期があって、影響が大きかったかなと思います。

それから、『パタリロ』などを描かれていた魔夜峰央さん。
昔の少女漫画って、すごく綺麗な線で描かれているのですよね。
ちょっと幾何学的というか…それがすごく好きで、本当によく見ていました。

あとは、佐竹美保さんというイラストレーターさんですね。
小学生の時は、佐竹美保さんが挿画を描かれている小説を、片っ端から読んでいました。
佐竹美保さんの描く登場人物がめちゃくちゃ大好きで、ずっと一生懸命、模写をしていましたね。夢中でした。

佐竹美保さんの挿画として有名なのは魔女の宅急便などですが、私がドハマりしていたのは中国伝奇系の作品で……
西遊記や封神演義などは、佐竹美保さんが挿画を描かれている児童書だと、最初のページに一覧として主要人物全員の絵が描かれているんですよ。
それがたまらなく好きで、このページをひたすら模写して、母親にこれは誰で、何で、みたいな説明をしていました。

服のしわの描き方やポージングがダイナミックで本当にかっこいいなと思います。そういった部分では、佐竹さんの絵には影響を受けている気がします。

 

―ありがとうございます。では、画力や作品のクオリティを上げるために意識していること、おすすめの方法などはありますか?

tatamipi:自分の絵をよく観察することかなと思います。
こうだったらいいのにな、と理想のイメージを頭の中で膨らませてみて、自分が描いた絵とその理想とのギャップを認識する。
そして自分の絵と理想との差を埋めていく、の繰り返しかなと思います。

細かいところを諦めないで丁寧に描くというか、『もっとうまく描けるんじゃないか』と思う部分を見つけては描き直して…を繰り返すうちに、今まで描けなかったものがふと描けるようになっていたりして、広がる瞬間みたいなものがあった気がします。

なので、自分の絵を描いた後に、こうしてみようかな、こうしたらもっと良くなるかな、みたいな部分を探しながら、改めてその絵を見る、という意識は結構大事なのかなと思います。

1枚の絵としてではなく、もっと細かいプロセスでそれがあってもいいかもしれません。
目や顔、髪など、一つ一つで「もっとこうしたら良くなるかも」みたいな部分を考えて、試してみる。
数打てば当たる、という時はあると思うので、要素要素で振り返ってみるのもいいのかな、という気がします。

一人ではできない『大きいものの中の一部』になれた時は、嬉しくて楽しい

―現在の、お仕事を受ける際の優先順位などがあれば、教えてください。

tatamipi:端的に言えば、やったことがなくて面白そうなお仕事や、自分が好きな分野のお仕事、わくわくするような感覚を受けるお仕事などを、お受けすることが多いです。

私は会社員なので、イラストレーターとしてのキャパシティが小さめだと思います。
だからこそ『めちゃくちゃやりたいお仕事だ!』と思える機会が巡ってきた時に、その機会を掴めるだけの余白みたいなものがないと、泣く泣く見送る羽目になってしまうと思っていて。

実際に以前、大きなお仕事の話をいただいたのですが、お見送りさせていただいたことがあります。とても魅力的な内容だったのですが、そのときの自分の状況的にお受けできるお仕事はひとつだけだと感じ、そのお仕事は『今の自分が一番やりたいことか?』を考えての判断でした。
そうしたら翌月に、以前から憧れていたお仕事の話をいただいてお受けすることができた、ということがありました。
それ以来、『今一番やりたいことができる余白があるか?』を意識しながらお仕事をお受けしています。

あとは、普通に風邪を引いて納期が…ということもありますし、代理でどうにかできない部分もある仕事ですので、ゆとりを持つのは大事だなと本当に思います。
それに、実利的な部分や見栄の部分でお受けすると、やっぱり筆が乗らない、みたいなこともあると思いますから…やってみたいとか、やったことがないとか、そういったわくわくするような感情面も大切だなと感じます。

―クリエイターとして活動する上で、不安などはありましたか?

tatamipi:不安なところでいうと、飽きられることかなと思います。
自分自身も、何かを好きだったり熱量を持って追いかけたりすることがあるのですが、同じ対象に対して、同じ熱量でずっと好きでい続けるのって、基本的に無理だと思っているんです。
あの時あんなに夢中だったのに、今となっては…って、恐らくほとんどの方が経験していることではないでしょうか。

自分もきっと、その対象になると思うんです。
今すごく「好きです」と言ってくれて、お手紙を書いてくださったり、イベントに足繁く通ってくださる方も、いつかは熱量が違うところに向いたりする。
それが私にとっては、ちょっと不安だったりします。

ただ、これって飽きたわけではなく、肌に馴染むように昇華されていくというか、良い意味で『過去のもの』になっていくみたいな感覚でもありますよね。
なので、そういうものだよなと思っている部分もあります。

受け止め方としては、何年か経った後、私が活動を続けていく中で、ふと視界に入る瞬間があった時に、「昔あいつ好きだったな」みたいに思い出してもらえたらなと考えています。
応援してくれていた時間やその頃のことが、その人にとっていい思い出になっていたり、あの頃に応援しておいて良かったな、と誇らしい気持ちになってもらえたりしたら、それはそれで嬉しいな、と思うことにしています。
そのために描き続けたいな、みたいな部分があります。

 

―では、絵をお仕事にしていて良かったことを教えてください。

tatamipi:絵の幅が広がりますし、1人ではできなかったことをやれるのが、嬉しくて楽しいです。

直近で描かせていただいた書籍の装画も、装丁のデザイナーさんによって印刷物として完成されますよね。
もちろん、その手前にはそもそも小説を書く方がいらっしゃって、編集さんがいらっしゃって、という部分もありますし、1人の力じゃなくて複数の人の手が加わって、意志が加わって作り上げられていく。
そういった『大きいものの中の一部』になれた時は、かなり嬉しいというか、楽しいと思うことが多いです。

 

―逆に、大変なことはありますか?

tatamipi:やっぱり、スケジュール管理かなと思います。

一度、自分の体調不良でスケジュールを圧迫してしまったことがあって…結構トラウマになっているんですよ。
その時は、数日納期を延ばしていただいて何とか描き切れましたので、大事にはならずに済みました。
でも、だからこそ「きちんと相手に迷惑をかけないようなスケジュールで物事を進められているか」、「今やらなければならないものと、これからやろうとしていることを比べた時に、適切な量になっているか」という部分は、それまで以上に気をつけるようになりましたね。

―最後に、今後の目標や展望を教えてください。

tatamipi:趣味として、私は音楽がすごく好きなんです。
ライブやフェスなどが好きなので、やっぱり音楽関係で何か仕事ができたらいいな、と心の中でこっそり思っています。

それから、絵柄の幅をちょっと広げていきたいですね。
今ずっと試していて、なかなかうまくいかないので出していないのですけど、男性とかも描けるようになりたいです。

別の質問の回答で、絵を描く時はあまり自分ルールや型にはめないように描く、とお答えしましたし、そう決めてはいるのですけど…それで男性を描こうとすると、性別がよくわからなくなってしまうんですよね。
なので、男性を描く時の引き出しみたいなものは必要かもしれない、というのは最近思って、練習しているところです。

あとは、タイポグラフィックをやりたいですね。

私、浮世絵がめちゃくちゃ好きなんですよ。
特に明治時代の浮世絵が好きで。
月岡芳年さんという有名な浮世絵師がいらっしゃるのですが、とにかくレイアウトが…文字の入れ方と人物の配置が、めちゃくちゃ格好いいです。

それにミュシャも好きです。
ミュシャも、文字と人物と全体のレイアウトの構成美があるじゃないですか。
すごく憧れがあります。

私の絵は情報量が少ないですよね。
恐らくそこを好んでくださっている方もいらっしゃると思いますが、私としては、情報量をもっと増やしたいなと。
画面全体のデザインとか、タイポグラフィックとか、そういった要素を取り入れていきたいなという思いがあります。

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