絵を描くことで、生活ができる
―現在の活動内容について教えてください。
Amii:私は普段、アニメ会社で会社員としてアニメ背景を描く仕事をしています。
それ以外の作家活動としては、2~3年に1回の個展を軸に、コミティアなどの即売会に参加したり、個人依頼を頂いたりなど、自分が無理なく楽しめる範囲内で活動しているという感じですね。
―イラストレーターとしてお仕事をしようと決心したきっかけを教えてください。
Amii:昔から絵を描くことが自分のアイデンティティでした。
勉強や運動が苦手だったのもあって、絵を選んだというよりも、それしかなかったというほうが正しいかなと思います。
以前勤めていた会社は絵を描くこととは関係のない職種だったのですが、自分には合わずストレスが溜まって辞めてしまいました。
こうして絵(アニメ背景)を描く仕事に就いてからはストレスなく働けているので、やっぱり自分は絵を描く仕事じゃないと出来ないんだなと思います。
―いったん別のお仕事をなさってから、今の業界に入っていらっしゃるんですね。それ以前は、絵の学校などに行っておられたのですか?
Amii:成安造形大学という、滋賀県にある小さな美術系の大学でイラストレーションを4年間勉強していました。普通科の高校から美術系に進学したので、大学では新鮮なことばかりで当時はかなり影響を受けたと思います。
―なるほど、ありがとうございます。では、ご自身の作品のスタイルや方向性は、どのように決められましたか。
Amii:今は人物と動物をメインに描いているのですが、明確に今の作風になったきっかけは2018年に描いた年賀状のイラストでした。
毎年年賀状のイラストを描いていて、その年は戌年だったので土佐犬と女の子がお雑煮を取り合っている絵を描いてみたんです。
そうしたらその絵がすごく自分の中でしっくりきて。以来、人物と動物をセットで描くことが多くなりました。
仕事は『作業』で、作家活動は『創作』
―作品を描くにあたって大切にしていること、意識していることがあれば教えてください。
Amii:とにかく色々な人の絵を見たり、映画を観たり、人と話したり…
自分の中にたくさんインプットをしておく、ということを大事にしていますね。
あとは、日常的にヒントになるものがあれば、スマホにメモしておいたりもしています。
―アニメ背景の仕事と作家活動、両方で絵を描き続けているのも大変なイメージがありますが、どのように切り分けていらっしゃるのでしょうか?
Amii:普段、仕事で描いている絵は背景ですが、作家として描いている絵は主に人物と動物がメインで背景がないので、私の中では別ものとして認識しているんですね。
仕事として描いている背景は『作業』で、作家として描いている絵は『自分の創作物』というイメージでしょうか。
作家活動においては、仕事ではできない、自分が普段いいなと思っているものや、好きだなと思ったものを絵の中に表現できればと思っています。
―影響を受けたクリエイターさんはいらっしゃいますか?
Amii:様々な人から影響を受けているので、この人、と限定するのは少し難しいですが…そうですね。
イラストレーターのヒグチユウコさんからの影響は受けているかもしれません。
直接的にというわけではないのですが、自分が動物を描くのも無意識の内にヒグチユウコさんの影響があるからではないかな、と。
初めてヒグチユウコさんの作品に触れたのは、確か高校生くらいの時でした。
何がきっかけだったかは思い出せないのですが、ヒグチユウコさんの絵はペンで細かく描かれている細密画で、初めて見た時すごく印象に残ったんです。
それからずっと、グッズがあれば買ったり展示に行ったりしています。
他には…子供の頃に好きだった絵本とかを振り返ってみると、今の作品に影響を受けているなと思うものが多い気がしますね。
昔から本当に絵本が大好きで、何十冊も積み上げて、寝る前に母に読んでもらっていたんです。
例えば、絵本作家の林明子さんという方の影響も受けているように思います。
『こんとあき』や『はじめてのおつかい』などを描かれている方で、特に私は『こんとあき』という絵本が昔から大好きなんです。
透明水彩に色鉛筆を重ねて描かれているのですが、そういう描き方などは結構影響を受けていますね。
それに『こんとあき』は、キツネのぬいぐるみと女の子がおばあちゃんに会いに行く、というお話なのですが、『動物と女の子』みたいなモチーフも影響を受けているのかなと思います。
あとは映画などから精神的な部分で影響を受けるところも多いですね。
―ありがとうございます。では、画力や作品のクオリティを上げるために意識していること、おすすめの方法などはありますか?
Amii:やっぱり画力を上げるには、とにかく描くことが大事ですね。
学生の頃は、時間があれば人物クロッキーや写真模写をひたすらやっていました。
クロッキーをやると、人物や動物の体の構造を理解できるんです。
感覚として自分の中に3Dで人体の構造を入れる作業みたいな感じなので、クロッキーをやった後とやっていない時では、絵の描きやすさが全然違いますね。
形として捉える作業というか。
やっぱり基礎が一番大事だなと思います。
私自身、今も学生の時ほどではありませんが、時々動物の写真からクロッキーをしています。
大学時代の友人がいなければ、今の自分はいなかった
―現在、作家活動においてはクライアントワークなど、お仕事を取っておられるのでしょうか?
Amii:フルタイムで会社員をしていますから、作家活動においては基本的に自分から仕事を取ることはしていません。
たまにSNSからウェルカムボードや似顔絵、アイコンイラストなどの個人依頼がありますので、その都度受けているという感じですね。
―クリエイターとして活動する上で、不安などはありましたか?
Amii:漠然とした不安は、常にありますね。
例えば、1枚の絵でたくさん反応をいただくと、嬉しい気持ちよりも次の絵をアップした時にがっかりされたらどうしようとか。
あとは描かない期間が長くなったりすると、描いていない自分に焦ったり。
絵を描く人間って、自分の作品に完全に満足できることは無いと思うので、仕方がないところかなとは思うのですが…
―ちなみに、描けない期間というのは、最長どれくらいあったのでしょうか。
Amii:以前の会社で働いていた時は、仕事のストレスで3年ほど描けなかった期間がありました。
その期間の中でも、1度個展をやりましたので、本当に全然描いていなかったわけではないのですが…
学生の時は「絵を描くのが楽しい」という気持ちだけでずっと絵を描いていたのが、楽しいだけじゃ描けなくなった期間が3年間ぐらいあった感じですね。
今の職場に転職して、自分に合った環境で働けるようになってからまた楽しく絵を描けるようになりました。
―以前、別のお仕事をされていた時は、どのような3年間を過ごしておられたのでしょうか。また、その期間を経てどのようにアニメ背景の世界に入られたのでしょうか?
Amii:前の職場にいる時は、好きだった映画なども全然観られなくなって…
インプットもできないし、アウトプットもできないみたいな期間があったんです。
でも、今の職場では元々大学時代の友人が働いていまして。
東京本社に勤務していたその子が関西に帰ってきた時、直接会って「今の職場がこういう感じで、あまり合っていない」というような話をしたら、「多分(背景の仕事を)Amiiちゃんならできると思うよ」と言われたんです。
それを真に受けて、本当に入社したという感じですね。
その友人がいなければ、こうして穏やかに作家活動を続けられていなかったと思うので感謝しています。
―素敵ですね、ありがとうございます。では、絵をお仕事にしていて良かったことを教えてください。
Amii:良かったことは自分が得意なことで生活が出来るというか、絵を描いてお給料を頂けるということが本当に有難いなと思います。
―逆に、大変なことはありますか?
Amii:どの仕事でもそうだと思うのですが、常に自分の能力と向き合っていかなきゃいけない仕事なので、常に良くなっていくように悩み続けないといけない大変さはありますね。
―それでは最後に、今後の目標や展望を教えてください。
Amii:今は京都を拠点に活動しているので、今までの個展もすべて京都での開催だったのですが、いつか東京でも個展をやってみたいなという目標はあります。
それから、人生の目標でいうと…絵を描けなくて苦しかった期間があったので、今後は細々とでも絵を描き続ける自分でいたいなという想いがあります。