「今の時代に生きる閉塞感」を表現したかった
―現在の活動内容について教えてください。
斉藤P:今は、『うさぴ』というキャラクターのイラストを制作したり、グッズの販売や展示などをおこなったりしているのがメインになります。
―展示などは、年に何回ほど開催されているのでしょうか?
斉藤P:いえ、それほど頻繁にはしておらず、うさぴを使っての展示はまだ1回ですね。
それ以前は、割と現代美術寄りで、百貨店などのグループ展に出展していました。
今は、その頃から少し方向性が変わったという感じです。

―イラストレーターとしてお仕事をしようと決心したきっかけを教えてください。
斉藤P:美術系の高校に通っていた頃から、SNSに絵や作品を投稿していたのですけど…
美大に進学した時、生活費を稼ぐためにSNSを通じて依頼を受けたり、作品の販売をするようになったことがきっかけでしょうか。
ただ、作品投稿自体は7~8年ほど続けていますので、特別に大きな決断をした感じではなく、とにかく続けていたら、今のようになったという感じです。
―ご自身の作品のスタイルや方向性は、どのように決められましたか。
斉藤P:大学で現代美術を専攻していたのですが、その学生時代に、ちょうどコロナ禍を経験したんです。
ですから、「この時代に生きる閉塞感」みたいなものを、キャッチーなキャラクターを用いて表現したいなと考えたのが、一番のきっかけでした。
最初は、ビニール袋に詰め込まれたぬいぐるみをモチーフにした、重めの作品を制作することが多かったのですけど…
だんだんとコロナ禍が収束していくにつれて、そういった重い感じのものではなく、もっと多くの人にとって身近で可愛らしい、愛されるような感じのキャラクター作りをしたいな、というふうに考え方が変わっていきました。
それで、街で生活をする、ゆるい感じのうさぎの絵を描くことが増えるようになったんです。
―時代の流れと情勢に合わせて作品が変化していったのですね。ちなみに、うさぎモチーフを選ばれたのには理由があるのでしょうか?
斉藤P:最初はうさぎではなくて、もっとモヤッとした、アメーバ的な、形のない感じのキャラクターだったんです。
人の心みたいな、そういう形のないものに目などを付けてぬいぐるみにしたら、自分の思うキャラクターができるかなと思っていました。
でも、描いている内にその形がだんだん「うさぎっぽいな」というふうに思えてきて、次第にうさぎ寄りになっていって…と変化していったんですよね。
単純に、私が昔から可愛いものが好きだから、という部分もあると思います。
サンリオなども好きですし、ぬいぐるみも子供の頃から好きだったので、気付けばそうやってうさぎモチーフになっていました。

敷居が高く感じられるからこそ、可愛らしい方面からアプローチしていく
―作品を描くにあたって大切にしていること、意識していることがあれば教えてください。
斉藤P:日常の中にある、些細な喜びや悲しみなどの感情や感覚を、ポップかつシュールに表現することを心がけて描いていることが多いですね。
実際に撮った街の写真を参考にして描いていることが多いのですが…
個人的にときめいたモチーフなどを強調して、そこを魅力的に見せるよう心がけながらも、『日常的によくある出来事』などを作品のテーマにすることで、日常がどこか特別に思えるような感覚を引き起こさせること、を意識して描いていることが多いです。
―日常のネタを仕入れる工夫などもあるのでしょうか?
斉藤P:大学時代にバイトなどを色々していたので、その頃の記憶を引っ張り出してきたり、散歩をしたり、などでしょうか。
あと、私は普通に会社で働いていますので、通勤中や勤務中に思ったこと、買い物に行った時に目にしたものなどを参考にしています。
そんな感じで、ネタは外で得ることが多いですね。
―影響を受けたクリエイターさんはいらっしゃいますか?
斉藤P:一番影響を受けたのは、画家の石田徹也さんですね。
高校生の頃、学校の美術室に置いてあった石田徹也さんの画集を見て、「何かすごいな」と思ったのが、記憶に残っています。
結構暗い絵を描いている方なのですけど…ただ、発想がすごく突飛な感じで、見ていてすごいんですよね。
生活の苦しさとか、「ああ、そうだな」って思うようなことを面白おかしく描いている感じがすごくいいなと思って、衝撃を受けました。
あともう1人は、ジュリアン・オピーという現代アーティストの方ですね。
大学生の時、東京で開催されていた大きな展示会のチケットが、学校から配布されたんです。それを見に行った時に作品と初めて出会って、すごく好みだなと思いました。
人物画が有名で、ユニクロのTシャツデザインなどもされているのですけど、簡略化したデザインや色彩構成で、人物や風景を描かれている方なんです。
街の絵や、街ゆく通行人の絵をよく描かれていて、『見ていて気持ちのいい画面』を作っているところがすごく魅力的だなと感じますね。
お二人の上手いところを吸収して作品創りができればいいなと思って、私自身、絵を描いています。

―ありがとうございます。では、画力や作品のクオリティを上げるために意識していること、おすすめの方法などはありますか?
斉藤P:とても地味なのですが、とにかく毎日、物をよく観察して、描く、ということを心がけていました。
物と自分の絵を隣に置いて、間違い探しみたいに比較していく。気に入らないと思ったところをとりあえず消して、直して描く、みたいなことをとにかく繰り返して、対象物と自分の絵が同じになるまで続ける、みたいなことですかね。
それでも行き詰まった時には、学校の先生や、身近なデッサン教室の先生などに、「何だか上手くいかないんですけど、どうですかね」みたいな感じで相談して、アドバイスをもらうようなことを、地道にやっていく。
私は、そんなふうにやっていたような気がします。
そうやって、納得がいくまで何度も試行錯誤して、とにかく1枚絵を完成させよう、ということを繰り返す。
本当に、すごく地味ながらも、それが一番力になったなと感じていますね。
それから、うさぴを描いていくにあたって、風景画を描くことも増えたのですけど…
景観に関しては、結構書籍などで描き方を勉強しました。
乗算レイヤーや変形ツールなど、デジタルツールを使う方法は、同じように書籍を通して学ぶことが多かったですね。
―高校や大学では、デジタルではなくアナログ作品が多かったのでしょうか。
斉藤P:そうですね、油絵を主に、描いていました。
デジタルに関しては、高校生の頃から触ってはいましたが、あまり本格的ではなく…スマホに指で描くくらいでしたね。
大学に進学してからiPadを買って、デジタルもやってみるか、と始めた感じです。
―今はデジタル作品が多いですよね。展示の時などには、たまにアナログ作品もあったりするのでしょうか?
斉藤P:アナログ作品に関しては、結果的にどんどんなくなっていった感じですね。
インスタレーション的なことをやりたい、と思った時に、アナログ作品ではなく、物理方面に移り変わっていきました。
以前やった展示では、ぬいぐるみを大量に発注して、そのぬいぐるみを大量に布団の上に置いて、その中からお客さんに一つずつ取っていってもらう、みたいなことをしたんです。
やっぱり美術や現代アートって、すごく敷居が高い感じがするじゃないですか。
それがちょっと、自分としては「う~ん…」と思うところがあるので、もっと気軽に見てもらう方法はないかなと考えた時に、可愛らしい方面からアプローチしていくのがちょうどいいのかな、と。
可愛いと現代アートの中間のことをやってみたら、すごく自分の中でしっくりくるものができるのかな、と思って、今のような感じになっていきましたね。
睡眠時間をきちんと取ることと、ご飯をきちんと食べることが大事
―現在、クライアントワークなどは受けていらっしゃいますか?
斉藤P:以前は、グッズのTシャツの絵や、時計やブランドのPRの絵など、クライアントワークを受けていた時期もありました。
でも最近は、自分のグッズの制作や作品の展示の方に力を入れていることが多いですね。
今後、またお仕事を受けるとしたら…
私の絵を見てくださっている方は、学生さんなど若い方が多いんです。
なので、そういった方々に届くような企画で、自分自身も納得がいくものがあれば、ぜひ参加したいなと考えているところではあります。

―クリエイターとして活動する上で、不安などはありましたか?
斉藤P:いろいろあるのですが、やっぱり絵を描くことが好きな分、つい頑張りすぎてしまうことも多いんですよね。
少し前まで、自分のキャパシティを超えて活動をしすぎてしまっていて、体調を崩してしまいがちだった時期がありました。
ですから今は、体調管理やスケジュール管理をきちんとおこなっていくことで、活動を長く続けられるようにしていく、というのが自分の中での大きな課題だなと感じていますね。
意識している部分としては、睡眠時間をきちんと取ることと、ご飯をきちんと食べることですね。
すごく基本的なことなのですが、元気に行動できる時間を増やしていくように心がけています。
―ちなみに、睡眠時間の確保について、工夫されていることはありますか?
斉藤P:結局寝ないと『寝ていない人の絵』になってしまって、駄目だなと思いますので…
よし寝るぞと思った後には、スマホなどディスプレイ的なものは全部閉じて、寝ることに集中します。
絶対に6時間から8時間は寝るぞ、と。
強い気持ちで寝るようにしていますね。
―では、絵をお仕事にしていて良かったことを教えてください。
斉藤P:やっぱり、絵を迎えてくださる方や、私の作品が世の中に出た時に喜んでくださる方がいらっしゃると実感できることですね。
あと、それをメッセージなどで伝えてくださる方がいることも、毎度、すごくありがたくて嬉しいなと思います。
相手の方の、生活の豊かさみたいな部分に貢献できているなと実感できた時が、一番やりがいを感じます。
―逆に、大変なことはありますか?
斉藤P:上手く案が出なかったり、思ったように描くことができない時間があったりすると、「しんどいな」と思うことが多いですね。
でも大体そういう時は、インプットが足りていないとか、休む時間・寝る時間をきちんと取れていなかったりすることが多いので…
一度外に出て景色を見たり、散歩をしたり、しっかり寝てリセットする、ということを心がけています。
―それでは最後に、今後の目標や展望を教えてください。
斉藤P:一番大きな目標としては、ずっと長く活動を続けていくことですね。
あとは、うさぴというキャラクターが、ガチャガチャなどのフィギュアやキーホルダーなどになったら、すごく嬉しいなと思います。
直近の目標としては、その辺りを目指して頑張っていけたらなと考えています。

