長く続けているということ以外、自分の絵には自信が持てずにいた
―現在の活動内容について教えてください。
えびせん:現在は、個人様からのご依頼と、展示会やイベントへの参加、そして自主制作が主になっています。
ご依頼に関しては、ミュージックビデオのイラストや、CDジャケットのイラスト制作のご依頼をいただくことが多いですね。
それから最近、フィギュアなどを作成している方からのパッケージロゴのデザインをご依頼いただいたこともありました。
あとは法人案件として、VTuberの方の会社さんから、グッズのイラスト制作をさせていただいたこともあります。
イベント参加に関しては、それほど頻度が高いわけではなく…
コミティアに毎回出る、というのは体力的になかなか難しい部分もありますので、今は年に2~3回出られたら良いな、と思いながら活動しています。

―イラストレーターとしてお仕事をしようと決心したきっかけを教えてください。
えびせん:物心ついた頃から、絵はずっと描き続けていました。
でも、長く続けていること以外には全然、自信が持てずにいたんです。
私は2年前に大学を卒業したのですが、就活も、周りがしていたので考えてはいたものの、上手くいかず…
イラストをSNSに投稿して活動を始めたのは高校生の時だったのですが、大学に入ってからご依頼などをいただくようになりましたので、そのまま今に至る、という感じですね。
―ご自身の作品スタイルや方向性については、どのように決められましたか?
えびせん:作品の方向性に関して、自分では何となく、2つあると思っています。
1つは、ぐちゃぐちゃと渦巻く感情を形にすることで、もう1つは、可愛い女の子を描くこと。
どちらが良いとかではなく、私にとってはどちらも大切な要素だと思っていますので、SNSを始めた頃からはもちろん、大学に入ってからは、より強く意識するようになりました。
学生の頃から美術部に所属していたのですが、中学も高校も普通科でしたから、美大に入った後は、周りに絵を描く人しかいないという環境が、私にとっては新鮮であり衝撃でした。
ただ、入学時、ちょうどコロナ禍でもありましたから、『顔が見えない絵の上手い人達』に圧倒されて、自分らしさというものを結構見失っていたんです。
「全然上手くもない私の絵に価値はあるのか」みたいなことを、ずっと考えていましたね。
でも、コロナ禍が少し落ち着いて、顔を合わせて制作するようになってからは、1人1人と会話をしていく内に、彼らは敵じゃなく独立した人間なんだ、と感じるようになっていきました。
そこに気付いてからは、目線を外から内に向けること、自分自身の感情について考えることが増えていきましたね。
今も悩みは絶えませんが、それを文章にして解体して、絵に昇華することで自分を慰めているような作品が多いかな、と感じています。

―色々と感じて考えてこられた中で、敢えて渦巻く感情にフォーカスを当てたことにも、何かきっかけがあったのでしょうか。
えびせん:周りの人のすごさを見ると、自分の心の中に黒いものみたいな…嫉妬心なのか、できない自分に対する悲しみや恥ずかしさなのか、そういったものが生まれるんです。
でも、その感情を抱くことがしんどくなってしまった時、noteというサイトで文章を書き始めてみたら、それによって少しだけ心の膿を出すことができて、楽になった経験がありました。
なので、渦巻く感情は定期的に作品として昇華していくようになりましたね。
―なるほど。noteでの執筆は、今も続けていらっしゃるのですか?
えびせん:はい、サブアカウント名義で続けています。
noteは、大学のレポート課題などで使い始めたのがきっかけでした。
高校生の時は本当に文章が苦手でしたから、文章を書くことももう少し気楽にできるようになれば、と思ったのも理由の1つですね。
そこから、今は絵と自筆の文章を合わせた日記をX(旧Twitter)などでも投稿するようになりました。
手書きの日記に関しては、大学2年生くらいの時に、ロゴやフォントの授業を受けて…
元々、看板の文字などを見るのが好きだったのですが、その授業がきっかけで「文字っていいな」と改めて思うようになったのも、きっかけの1つになりましたね。
ちょうど日記帳も持っていましたので、書いてみよう、と。
それが、今も続いている形です。
毎回新鮮にわくわくしながら描けるのが、アナログ絵の良いところ
―作品を描くにあたって大切にしていること、意識していることがあれば教えてください。
えびせん:描く上で大切にしていることは、線を妥協しない、ということです。
自分が納得できなければ描き直したいですし、妥協して描いた絵は面白みがないと思っていますので、そこは本当に大切にしていると思います。
絵を描く行為自体も、描かなきゃ、と焦って描いても良いものが描けませんから、毎日安定した絵を出せる人はすごいな、とずっと思っています。
自分は結構波がありますので、絵の練習みたいなものもほぼしていないというか、常に本番だと思っていますね。
苦しみながら描いても自分が嬉しくならないので、とにかく楽しく、良い線を引けるように祈りながら描いています。

―えびせんさんはアナログ作品も多いですから、常に本番、という意識はすごいですね。
えびせん:アナログでは細かい絵を描くことが結構多いのですけど、毎回、下描きをせずに一発で描いているんです。
下描きをしたら、清書でもう一度同じものを描く時に飽きてしまう、というのがあって。
毎回、新鮮にわくわくしながら描けるのが、アナログ絵の良いところだと感じています。
―なるほど。ちなみに、えびせんさんの描かれる女の子達は、髪がすごく印象的ですが、何か意識されている点はあるのでしょうか。
えびせん:自分では、そこまで意識して髪型を決めている感じではなかったのですけど…
いつも主に描いている、横毛の部分がちょっと長くて、後ろが短い女の子は、ささくれちゃんという名前があるんです。
その子が生まれたのは、自分が中学生の頃だったのですけど、当時からずっと自分の分身のような感じで描いています。
渦巻く感情面を意識した絵を描く時は、ささくれちゃんをたくさん描いたり、また埋めたりみたいなところで、登場していますね。
―ありがとうございます。では、影響を受けたクリエイターさんはいらっしゃいますか?
えびせん:特定の誰かというより、周りにある様々なものから影響を受けていると思っています。
例えば、自分がよくボールペンで描いているごちゃごちゃした絵は、中学の美術部の友人の影響だと思いますし、モチモチした可愛い感じの絵に関しては、私が初めて触れた深夜アニメである『けいおん!』をはじめとした、京都アニメーションのキャラクターが影響しているなと思っています。
SNSを始めてから、たくさんの絵を描く人達を見てきて…あまりにも上手い人ばかりなので、嫉妬みたいな感情もたくさん経験してきたのですけど。
だからこそ、自分らしさを改めて見つめ直すようになり、周りの環境すべてが自分を作ってきたんだなというのを、しみじみ感じましたね。
―自分らしさを見つめ直す際の糸口などは、どのように見つけられたのでしょうか。
えびせん:今の自分の絵がわからなくなってから、過去の自分の絵をいっぱい見てみた時、1つの『芯』みたいなものがあるのかもしれない、と気付いたんです。
「線を大事にしたいという気持ちはずっとあるな」とか、「女の子を描きたいんだな」とか。
やっぱり「いろんな形の『可愛い』っていうものが好きなんだな」とか。
振り返る度にそういう芯を感じることができていますから、『他』と比べるより、『自分の今まで』と比べることで、自分らしさがどんどん見えてくるような気がしています。
―画力や作品のクオリティを上げるために意識していること、おすすめの方法などはありますか?
えびせん:画力の向上に繋がっているかはわからないのですが、クロッキーはよくしていますね。
ゼロから何かを生み出すのがしんどい時には、人間の写真をクロッキーして、心を落ち着かせたりしています。
服のしわの入り方とかを見るのが元々好きでしたので、電車の中や町などでも、ちょっと時間があったら少しクロッキーをしたり、とか。
まだ、バランスを取るのは苦手分野ではあるのですけど、自分が好きな部分をいっぱい描いたことは力になるなと感じます。
私の場合、定期的にする、というよりは、気持ちの都合でその日にバーっと描く、ということが多いですね。
それがきっかけで、「なるほど、ここがこうなって、しわがこうなっているんだな」と気付けたりして、描けなかった絵が少しだけ描けるようになったりします。
―素晴らしいですね。ちなみに、しんどい時にクロッキーで息抜きをしよう、と考えるようになられたのは、いつ頃からなのでしょうか。
えびせん:クロッキー自体は、小学校の美術の授業の時から好きでした。
デッサンは苦手だったのですけど、クロッキーは勢い良くワーッと描けるのが気持ち良くて。
なので、何かがきっかけで始めたというよりは、本当に元々好きだったんだと思います。

人それぞれの、絵に対する視点の違いがとても興味深い
―現在は、どのようにお仕事を取っていらっしゃるのでしょうか。また、忙しくなった際に受けるお仕事の優先順位などもあれば、教えてください。
えびせん:まだまだお仕事をたくさんいただけるような存在になれていない、というのが正直なところですから、むしろ私が知りたい、という気持ちがありますね。
今は、ホームページを開設したり、イベントがきっかけで私を知って依頼をしてくださる方もいますので、地道な活動が一番大事なんだろうなと思っています。
お仕事の優先順位に関しては…
できるだけいろんなジャンルのお仕事を受けたい気持ちもあるのですけど、あまり男の子のキャラに自信がないので、その点では、お断りすることがあります。
合わないものを届けてしまうのが、自分の中で納得がいかず…「私の絵だから見てみたい」と思っていただけている、その気持ちがあるかどうかを重視していますね。
―ありがとうございます。では、絵を仕事にしていて良かったことを教えてください。
えびせん:やっぱり、好きなものを描ける、ということが嬉しいですね。
自分の描きたいものを表現して、それを好きだと言ってもらえた瞬間に、今の自分で良かったなと強く思います。
それから、展示やイベントなどで、他の絵を描く方とか、ファンの方と交流することが、とても楽しいです。
それぞれの絵に対する視点の違いみたいなものがとても興味深いので、もっとお話しする機会を設けられたらいいなと思いますね。

―それでは最後に、今後の目標や展望を教えてください。
えびせん:本や音楽に携わるお仕事ができたらいいな、と考えています。
様々な物の電子化が進んでいる中、印刷されて手元に渡ることで、新たな見え方があると思っていますし、普段言葉や音から絵を描くことが多いので、作品作りのお力になれるのではないかなと感じています。
それに、純粋に、お店に並んでいる自分の絵を見てみたい、という気持ちもありますね。
人様の創作物と合わさった時に、自分の絵はどのような変化をして形になっていくんだろう、と考えるだけでわくわくするので、ぜひお仕事お待ちしております。

