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【erumina - エルミナ】記事一覧インタビュー「人に感動してもらえるものをつくりたい」木村智博さん(前編)
「人に感動してもらえるものをつくりたい」木村智博さん(前編)

「人に感動してもらえるものをつくりたい」木村智博さん(前編)

木村 智博

木村 智博

Profile

1973生まれ。
個展やグループ展など展覧会を中心に活動。
2003東レデジタルクリエーションアワーズ2002/最優秀賞。
文化庁メディア芸術祭/審査委員会推薦作品など。

アクリルガッシュや鉛筆で女性や天使を描く。パステルカラーを中心に様々な色をかさね淡い色調で描く。装飾的な背景や植物、キャラクターをモチーフに、人物をどのように魅力的に表現するかを探求。デジタルとアナログを組み合わせた作品を制作を行いながら、2020年からは、アナログを中心にした制作を行う。

クリエイターとしての原点

―今の現在のクリエイターとしての活動を教えてください。

木村:今は展示が中心で、個展やグループ展に参加することが多いですね。

―クリエイターとして活動されるきっかけはありますか。

木村:もともと絵を描くのが好きだったということもあったのですが、高校3年生のときに急に美大に行こうと思い、画塾に通い出しました。そのきっかけはヴァチカン美術館のシスティーナ礼拝堂にあるミケランジェロが描いた「天地創造」という天井画があるのですが、その天井画を修復する番組をテレビで見たんですね。それを見たときに、僕自身はカトリック信者ではないんですが作品を見た瞬間引き込まれたというか。絵を見て宗教的な物語や教えを得たり、神様として捉えたりすることがすごいことだなと。そこから自分でも「人に何か感動してもらえるものがつくりたいな」と考えるようになりました。

―なるほど。美術への感動みたいな感じですかね。

木村:そうですね。宗教画って絵が信仰の対象になっているということですよね。ただの天井画ですけど、その絵が旧約聖書「創世記」にもとづいて描かれているので、観た人は絵の場面から物語を読み取り感動する。そういったもの全てにすばらしさを感じました。

―やはりクリエイターって美術の厳しい世界の中で生きていると思うのですが、単純に創作活動をされてるんじゃなくてプロとしてご飯を食べていくみたいな決意って美大に入学する前からあったのでしょうか。

木村:いや、将来的に何になれるのかっていうのはわからず、とりあえず美大に行けば何かあるのかなっていうぐらいの感覚です。当時ってSNSもなかったので芸術の世界は厳しいとかそういった情報しかなくて、どんな仕事ができるかもわかりませんでしたが、とりあえず絵を描くことや何かをつくって仕事をしたいなって思いがあっただけです。

大学を出たあとに大学院へ行こうと思い、その当時は大学院にしかコンピューターの授業やMacを使える部屋がなかったんです。でも、ちょうど僕が大学院に在学していた頃に、大学の学生にフォトショップやイラストレーターを教える授業がはじまり、当時院生が先生のアシスタントとして授業のサポートをしていたので、アシスタントをしながら、卒業と同時に大学に助手として残ることができました。それが分岐点ではあったと思います。

一種の画材としてのデジタル

―イラストっていうものがデジタルでも描ける時代になった変革期があったと思うんですが、木村さんは油絵をずっと描いていてデジタルに移行するっていうのはどのような感じでしたか。

木村:大学生の頃は、洋画専攻だったので印象派のような油絵を描いたり、4年生では抽象的な作品もつくっていたのですが、そのような制作をしていると同時に新しい画材も探していました。そのときにデジタルに出会って、本当に衝撃的でした。

Macでフォトショップを使わせてもらったときに、「色も1670万色が表現できたり、写真を加工したり、画材と同じように描けるんだ」っていうのがもう衝撃的で、今では当たり前ですが、当時はめちゃめちゃ楽しかったですね。それからデジタルでの制作にのめり込んでいきました。

でも、僕がデジタルで描きはじめたときって、美術をやっている方がコンピュータを使うことがまだまだ少ない状況でした。だから当時は運よくコンペとかでも受賞することができたんです。

―そうなんですね。イラストについてお聞きしたいのですが、今の描き方としてはどのような形で描かれてますか。

木村:大学院時代はもともとデジタルで『分割したものを再構成する』をテーマに、3DCGをメインに制作していました。でも3DCGでの制作は時間がかかりすぎることや、なんとなく自分の限界が見えて行き詰ってしまい、それだったらもう描いた方が早いかなって思って、デジタルで絵を描きはじめたんですね。そこからは抽象っていうより具象的な作品を描いていくようになりました。

最初はクリップスタジオペイントで人物の下描きをつくって、その後、イラストレーターを使って髪や花などのオブジェクトを配置して構成を考えていきます。ここの段階でもある程度大まかな構成は考えていくんですけど、それをケント紙に薄く印刷して鉛筆で細かいディテールを描いていく。

この細かいディテールがデジタルの場合かなり難しいというか、どこまで細かくしたらいいかわからないっていうのもあるのでアナログでやってます。あとデジタルって「きれい過ぎる」ところがあるので、その「きれい過ぎる」をなくすために、いったん鉛筆で描くことで自然な雰囲気をつくることができるということも。

鉛筆画をコンピュータに取り込んで着彩をしていくっていう流れです。その作業が終わったらまた水彩紙に印刷をして、上からアクリルガッシュや透明水彩を使って作品を仕上げて展示していました。デジタルとアナログをいったりきたりしながら制作するスタイルです。

ただ、この作業もとても時間がかかることと、どうしても印刷という部分が加わると1点の作品としての価値が低くなってしまうこともあり、現在は、下描きだけデジタルで、その後はアナログで描いています。水彩紙に下描きをうつしアクリルガッシュ、鉛筆、色鉛筆で作品を仕上げているので、最近、展示している作品はアナログ作品になります。

―木村さんにとって3Dやデジタルなどのパソコンを使って描いていくことに対する印象は衝撃的なものだったと思うんですけど、ある種画材みたいな感じなのでしょうか。

木村:そうですね。それに関しては本当に絵の具や画材の一種っていう感じがします。

―表現できることが、3D、イラストレーター、水彩や油絵などで全て違うみたいな感覚でしょうか。

木村:本当にそんな感じです。

―その画材によって作品も合わせて描けるものが変わっていくのでしょうか。

木村:はい。絵の具を使うのだったら、発色が綺麗なこういう色を使ってみようとか、画材によって自分にはこういう表現の方が合ってるんだろうなっていう感じで描いています。

リアルでつながる大切さ

―クリエイターとしての個人のことに戻るんですが、活動されてて良かったことはありますか。

木村:やはり展示をすることが現在は多いので、そこで見に来てくれた方が「すごくいいよね」とか言ってくれるのは本当にありがたいです。去年東京で個展を開催したのですが、初日からたくさんの方に来ていただいて、すごく褒めてくださるかたばかりで、本当に嬉しかったんですよ。

―今でも長い間クリエイター活動をされてますが、それはすごく大事なモチベーションですか。

木村:そうですね。今は大阪で活動してることもあって、大阪の方は何回も来てくださったりだとか新しく出会う機会が減ってきているのですが、東京へ行ったらSNSでフォローしてくださっているけど展覧会には初めて来たみたいな方が結構多かったので、新鮮でしたね。

―やはりオンラインでつながっていても実際に会ったら違いますか。

木村:そうですね。男性だと思ってたら女性だったりとか。なんか僕も女性だと思われることが多いですけど(笑)

―すみません、思ってました(笑)

木村:結構多いです(笑)あと、今年の1月に地元で展示があり、高校時代の同級生が来てくれたりとか。この活動をやってなかったら普段会えなかったような人と会えたりとかしたときに、展示をやっててよかったなと思いますね。

後編へつづく

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