
「罪悪感をもたずに、認めることも大事」木村智博さん(後編)

●木村 智博
Profile
1973生まれ。
個展やグループ展など展覧会を中心に活動。
2003東レデジタルクリエーションアワーズ2002/最優秀賞。
文化庁メディア芸術祭/審査委員会推薦作品など。
アクリルガッシュや鉛筆で女性や天使を描く。パステルカラーを中心に様々な色をかさね淡い色調で描く。装飾的な背景や植物、キャラクターをモチーフに、人物をどのように魅力的に表現するかを探求。デジタルとアナログを組み合わせた作品を制作を行いながら、2020年からは、アナログを中心にした制作を行う。
制作中に出会う「感触」
―活動をする中で苦労をされていることはありますか。
木村:作品を作ること自体は好きなんですけど、作品の質を保つのが難しいですね。特に忙しいときにつくっている作品を後から見返すと全然良くなかったりするので、なかなかムラがあるというか。いろいろ挑戦しながらやっていることもあるのですが、それがうまくいくときとうまくいかないときがあるので、そこが一番難しいところですね。
―心理的な状況っていうのはどうしても出てしまうと。
木村:多分それが出てるのだと思います。
―デジタルで下書きされてもそういうふうに出てしまうんですね。
木村:そんなに時間をかけなくても比較的よいものができるときもあれば、1回描いて再度作り直してみたらよくなったりするときもあるので本当に難しいというか。2回やっても駄目なときもあるので、そこは本当に「どうしてこうなるんだろう」ってのはちょっと自分でもわからないですね。
―それだけ心理的状況が出るなんてすごいですね。
イラストを描く上でモチーフやテーマはどういうふうに決められてますか。
木村:とくに決めてるわけではないんですけど、女性を描くことが多いですね。
―それってインプットしたものの抽象度を上げて描きたいなと思われるのか、それともご自身の中からこういうものを描きたいっていうイメージが湧き出てくるのか、どういう感覚でしょうか?
木村:そうですね、何か違うものを見たときにこういうイメージで描きたいなって思うときもあれば、自分の中でイメージがぱっと浮かんでくるときもあるので、両方ありますね。
―デジタルとアナログ両方を使って描かれてる方に対していつも不思議に思うのですが、イラストの完成系のイメージって持ったまま描かれるのですか。
木村:描いてる間に変わりますね。昔はデジタルで描いていると意図しないものが生まれることが多く、それがおもしろかったんですけど。デジタルで慣れちゃうと逆に完成イメージができてしまうんですね。ゴールが見えてしまって、そこに最短距離で行けてしまう。使えないときってその最短距離がわからないので、右往左往しながら制作しているときは思いがけず自分の意図しないものができてそれが良かったりしました。ただ、それが逆に慣れれば慣れるほど起こりづらいというか。
でも僕の場合は、アナログの方がにじみや色の混ざりとか偶然によって出来やすいので、着彩に関してはアナログの方があっているかもしれないです。
アナログで描き始めた最初の頃も、ついついデジタルで描いていたイメージに寄せようとし過ぎたところがあるんです。でも、最近ようやくでもアナログの良さというか、こういうふうにすれば結構いいかもっていうことが感覚としてわかってきました。
続けることの難しさ
―現在、学校の先生もされてらっしゃる中で、プロのクリエイターとして自身が1人で活動する中で大切だなと思う要素を教えてください。
木村:技術的なところは特になくて、やはり続けて作品をつくって発表するというのが一番難しいことだなと感じるようになりました。学生を見ていても、才能があってすばらしい絵を描けるのに辞めてしまう人もすごく多いので。何かをつくるだけでなく、それを実際に展示したりSNSで発表することを続けることが一番難しいことかもしれません。
運よく大学教員として働くことができ、このような活動ができていますが、多分続けてこなければ、今のような作品には到達できなかったと思います。
―続けることって本当に難しいですよね。作品を作り続けるために何か工夫されてますか。
木村:もう習慣化してしまったので、歯を磨くとかそういう感覚です。どっちかっていうと別に強制ではなくて、それをすることが日常というか。だからこそ、描けないとすごくストレスがたまってきたりもします。「絵を描くこと」をやることで心を落ち着かせていたり、もちろん苦労もあるんですけど、日常の一部になっていると思います。
―絵を描くことを嫌いになったことはないんですか。
木村:他の方の作品を見たりして、「もうこの作品のレベルまでは到達できないな」と思って描けなくなったことはありますけど、描けないときは描けないときであまり無理しないようにしています。そこはあんまり深追いしないというか。学生にもよく言いますが、気分が乗らないときに、描けないってことが逆に罪悪感になってしまったりするんですね。でも例えば「机の上を片付けたり、資料を集めたから、もう今日はこれでOK」っていうふうに、絵を描かなかったことに罪悪感をもたずに、それを認めてあげることも結構大事かなと思ってて。
自分でもどうして描き続けることができるだろうって考えたことがあって。服とかの買い物へ行って商品をずっと見たりいろんなお店にいくのが全然苦じゃない人って、むしろ好きでやっているじゃないですか。でもそういう感覚は自分には全くなくて、長時間お店で商品を見てると疲れてしまってすぐに帰りたくなってしまう。それと多分似たような感じかなと思うんですけど、絵を描くことが自分にとってはそれほど苦ではないんです。作品をつくって発表し続けることって、僕にとっては楽しいんですけど、多分それが他の人にとっては結構大変なんだろうなとか。好きというよりもごく自然にできるというか。
大変なことのように見えても、やってる本人はそんなに大変だとは感じていない。とはいえやっぱり疲れたり、しんどいなと思うときも当然あります。でもそれはそういうものかなって思ってます。
―描き続けられる才能と努力を感じました。最近は個展やグループ展をされてるとおっしゃっていましたが、今後の活動も展示がメインになってくるのでしょうか。
木村:そうですね、時間的に依頼を受けることが厳しいっていうのもあるんですけど。特に何か仕事として依頼を受けるっていうことがあまりなくて。今後の予定は、これからも声をかけいただいた個展やグループ展での活動が中心になってくると思います。
あとは、自分の作品を企業商品に使ってもらうっていうこともやりたいなと思いますね。グッズではなく、商品パッケージや、ワインのラベルとかに作品をつかって欲しいです。
―最後になりましたが木村さんの絵を好きなかたに、一言お願いします。
木村:作品を見てもらえることが僕にとってはすごく有難いことです。展示などを見に来る機会があればぜひ、実際の作品を見てほしいと思います。